Novel

□バック・ストローク
2ページ/8ページ



    B.S.
〜バック・ストローク〜



EP1.戸惑いのスクールデイズ









  プロローグ






2016年3月28日午前1時30分(現地時刻)
パリ市内




パリ市内のとある一角。昼間は多くの人で賑わっていただろうそこは、真夜中にもなると海の底のように静まり返り、今では壊れかけた街灯だけがただ着いたり消えたりしていた。





少し時間が経ち、一人の男が街灯の下を通り掛かった。


見たところ歳は30後半から40だろうか、手入れをしていないボサボサの髪に少しくたびれたスーツ姿。
背は高いがほっそりとしているその男は手に鞄を持つせいか一見そこらの会社員にも見える。


だが、この時間に会社員が帰宅するのは有り得ないはずだった。
何しろ今は2時過ぎ。仕事の帰りにどこかに寄っていたとしても普通はこんなに遅くならない。
しかもここはパリだ。日本と違い長時間労働をしようなんて人間はいない。




少し歩いたところで男は周りの様子を窺い、誰もいないのを確認するとすぐそばの小さな路地に消えて行った。





路地の端っこ、行き止まりとなっている所まで辿り着くと男は手に持っていた鞄を足元に置く。
おもむろにスーツのポケットから無線機を取り出しその耳に当てる。





「こちらツェン。目的地に到着した。これより起爆装置を作動させる。」


どことなく暗い表情で『爆弾』の入った鞄を一瞥しツェンという男は無線機にそう告げる。
すると暫くしてから無線機の向こう側から野太い男の声が返って来た。


「エイルだ。もう少し待て。二カ所だけ作業が遅れている所がある。」


「二カ所?誰の所だ。」


男は不機嫌そうな顔をし、他で爆弾設置が遅れているらしい者達の名前を聞いた。


「バレドとハンマーの所だ。なぁに大丈夫さ。慌てなくてもパリの奴らは、あと少しで火の海を見る事になる。」



そう言ってエイルは愉快そうに笑う。
だが、そんな彼をよそにツェンは作業が遅れている者の名前を聞き少し不安を覚えた。

その二人と一緒に仕事をする事はあまりなかったが、彼の知る限りでは今までに二人が仕事に遅れる事はなかった。



実際、彼のその不安はすぐに現実のものとなるのだった。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ