距離。
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この時間に家を出たら、途中で喜市さんと合流できる筈だ。
俺は近くにあったビニール傘を広げて勢い良く家を飛び出す。
早く喜市さんに会いたくて、無意識に早足になっている自分に気付いたけど、構わずに今にも走り出してしまいそうな早さで喜市さんの元へと急ぐ。
「喜市さん!」
先の方に喜市さんを見付けて思わず叫んでしまった。
それに気付いたのか、喜市さんは雨避けの為に頭上に乗せていた鞄をおろしてニッコリと微笑んだ。
俺は急いで喜市さんに駆け寄って自分がさしていた傘に喜市さんを入れてあげる。
「何やってるんですか」
「瀬那君」
「ビショ濡れじゃないですか」
喜市さんが濡れているだろうと思ってハンカチを用意していた俺は、それをポケットから取り出して、喜市さんの顔や頭の水を拭ってあげる。
「タオルにすればよかった」
「いや、ありがとう」
「別に…」
素直にお礼を言われてしまうとなんだか恥ずかしくなる。
「ところで…」
「え?」
「俺の分の傘は?」
「え……あ!」
喜市さんに傘を指差されながら言われて気付いた。
肝心の喜市さんの傘を持ってくるのを忘れてしまっている。
「ふふふ…瀬那君、傘貸して」
「え」
そう言うと喜市さんは、俺の手からヒョイと傘を奪い取ってしまった。
「相合い傘、ね?」
そんな顔して笑うなんてズルイ。
俺は恥ずかしくなりながらも、喜市さんのその行動がかっこよくて、嬉しくて小さく頷く。
「瀬那君」
「なんです…っん」
急に唇に湿った物が触れたと思ったら、すぐに離れていく。
それが喜市さんの唇だったってことはすぐにわかって、俺はビックリして言葉が出てこない。
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