距離。

□♪
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「ただいま」
「おかえりなさい」

今日は、6月の第3日曜日。
そう…父の日だ。

「瀬那君?」
「なんですか」
「今日…誰かの誕生日、って訳じゃ、ない、よね。俺の記憶だと…」
「?」
「なんでご馳走なの?」

喜市は、テーブルに並べられている料理を指差しながら考えている。瀬那は、そんな喜市を無視して次々と料理を運ぶ。

「え、無視?」
「はい」
「…無視出来てないね」

そう言って「クスッ」と笑う。
瀬那は、一瞬だけ眉間に皺を寄せてから椅子に座った。
そして喜市のことを見る。

「何してんですか。早く座って下さい」

瀬那に言われて、喜市は背広を脱いでから椅子に座った。
喜市が座ると、瀬那は下を向いてしまう。
そんな瀬那を見た喜市は、瀬那の顎に手をかけて自分と目を合わせる。

「………」

瀬那は無言のまま、目だけを逸らした。

「どうしたの?」
「あの、ですね…その、」

喜市は顎にかけていた方の手で今度は瀬那の頭をポンポンと撫でた。

「…いつも、ありがと、う、ございます」
「え」
「…………」

瀬那がチラっと喜市のことを見る。すると、喜市がニッコリと笑って立ち上がった。
喜市は瀬那の前まで来て瀬那のことをギュッと抱きしめる。

「ありがとう」
「え?」
「俺、幸せで死にそう」

瀬那は、抱きしめてくれている喜市の背中に手を回す。そして、喜市の唇に当てるだけのキスをした。

「ずっと、俺の父さんでいて下さい」
「当たり前でしょ。瀬那君は、俺の大事な息子で可愛い恋人だからね」

そして喜市と瀬那は唇を重ねた。


 

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