Present
□三万打記念小説/睦月様
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「はあー、最悪だ…」
俺は、大量のティシュにくるまれた左手の人差し指を右手で押さえながら、保健室へ急いでいた。
「くそっ、アイツのせいだ!」
アイツ……相原に告白まがいをされ、挙げ句の果てには相原ん家以外で酒を飲んだら、お…お、お仕置き…とか吐かしやがった!
正直言って、相原は男の俺から見てもイケメンだと思う。
だからといって、アイツを好きという事に繋がるわけじゃないぞ?
逆に、俺に気がある事自体分からない…。
うーん……と、ここ最近その事で考える事が多く、さっきもカッターで作業しながら考えていたら、この有様だ。
こうして振り返ると、やっぱりアイツのせいだ!
怒りを保健室の扉に込めながらガラガラッと勢いよく開けると、白衣は着ているが…いつもとは違う養護教諭が、椅子に腰掛けていた。
「…あ?お前は…!?」
「おや?貴方は、2年担当の数学教師、河合先生じゃないですか」
……チッ、忘れてた。今日から三日間、本物の養護教諭は会議で地方へ出張しているんだった!
代わりの養護教諭として宛がわれたのが、銀縁眼鏡の見るからに胡散臭い保健教師、伊達清彦。
はあー、最悪な事がこうも続くなんて…俺ってとことんツイてねぇな。
ため息を吐きながら、渋々伊達に切った人差し指を見せた。
「ああ、カッターで切ってしまったんですね。少し染みますが、我慢して下さい」
消毒液がたっぷり染み込んだ脱脂綿で、人差し指を消毒する。
「っつ!…いたたっ…」
思っていた以上の痛みに、俺は眉間に皺を寄せながら痛みに耐える。
すると、伊達がボソッと一言。
「その顔……そそりますね」
あ゙あ゙!? 今、とんでもない言葉が聞こえたぞ!?
「おい、伊達。今…何て言った?」
「ん?何でもありませんよ」
眼鏡を指で上げながらまるで女に優しく言う様な伊達の声音に、俺の全身が粟立つ。
「さあ、出来ましたよ。軟膏を塗って、絆創膏を貼っておきましたから傷が化膿する事は無いと思います」
「おう、サンキューな!」
意外にもちゃんと手当してくれたことに驚きながらも感謝しつつ、保健室を出ようとしたら……。
「河合先生…」
「…あ?何だよ?」
振り返ると笑顔でクイクイと手招きをする伊達に、はてなマークを頭にたくさん付けながら近付いた瞬間!
「うわあっ!? ななな、何だよ!?気持ち悪い!離せ!」
急に伊達に抱きしめられて、あまりの気持ち悪さに目を見開いた。
「手当に対してのお礼が、まだですよ?」
「そ、そんなものっ!誰がお前にやるか!」
「へぇー…、私にはあげられないのに、相原先生には色んな事してあげるんですね?」
相原の名前に、一瞬で体が固まる。
コイツ……俺と相原との事を知ってやがる!
「校長にチクるのか?」
「まさか、私はそんな鬼みたいな事はしませんよ」
じゃあ、黙っててくれるってか?
いや、いや、いや!伊達はそんな優しい奴じゃないハズだ。
「なら…何が目的だ?」
「目的…?決まってるじゃないですか。貴方ですよ、河合先生が欲しいんです」
耳元で吐息混じりに囁かれ、何とも言えない気持ち悪さに、俺は思いっ切り伊達を突き放した。
「気持ち悪い事、言ってンじゃねぇ!…帰るからな」
踵を返して扉に手をかけたら、一瞬にして視界が天井に変わっていて、俺は伊達によって保健室のベッドに押し倒された事を悟る。
……ヤバい、この状況は、本気でヤバい。
この歳になって貞操の危機を感じるなんて……俺の人生どうなっているんだ!
「河合先生……私にも、相原先生と同じ事、もちろんさせてくれますよね?」
そう問い掛けながら俺を組み敷く伊達の表情が恐ろしく真面目で、俺は咄嗟に目を瞑った。
そして、脳裏に浮かんだのがアイツだった。
「あ……相原ーっ!!助けろ、コノヤロー!!」
マンガみたいにそう叫んでみたが、助けに来る確証なんて……。
――‥ドッターーン!!!
保健室の扉を蹴り落として入って来たのは……!
「伊達先生……何を、なさっているんですか?」
「ふ、あははは!まさか、本当に貴方が来るなんて…思いませんでしたよ」
悪党の笑みを浮かべた伊達の視線の先には、怒りで体を震わす相原の姿が…。
「ホ……ホントに、来た」
「当たり前じゃないですか、辰也さんを助けるのも、辰也さんを組み敷くのも…」
そこまで言って俺らに近付き、伊達を突き放して俺をベッドから降ろし…。
「辰也さんにこんな事をしていいのも、僕だけです」
「は?…んンぅっ!? んんーー!」
「なっ!? 相原先生っ!?」
最悪な事に、相原は伊達の前でディープなキスをしてきやがった!
「ンンっ、ふぅ…んく」
相原の舌が、俺の咥内を好き勝手に暴れ回る。
歯列をなぞったり、上顎を舐めたり、俺の舌や下唇を吸う。
「大胆ですね…相原先生…」
最後にチュッと俺の唇に軽くキスをしてから唇を放し、相原は自分の腕を俺の肩に回して引き寄せて何とも恥ずかしい一言をサラっと言いやがった。
「こんなに可愛い辰也さんを独り占めできるのも、僕だけなんです。だから、伊達先生?貴方の出る幕はどこにもありません。分かりましたか?…では、失礼します」
「え、あ…おい!相原!?」
俺の肩に腕を回したまま、俺と相原は保健室を後にした。
その夜、たっぷりと説教を受けたのは……言うまでもねぇな。
しかし……伊達に迫られた時は気持ち悪くてしょうがなかったのに…何で相原とするキスは気持ち悪くないんだ…?
うーん………謎だ。