光謙
[勝負パンツ]






いつもより急いで着替える。
今日は一分一秒無駄にできひん。

「お待たせしました」
「おー。ほな行こかー」

椅子に座って待ってくれてた謙也さんに声をかけると、にっこり笑いながら立ち上がってくれる。
まだ僅かに残ってた部員に挨拶して部室を後にすると、急に心臓がバクバク言いはじめた。
なんちゅーても今日は…初めてウチに謙也さんが泊まるから。

「おじゃましますー」
「ど、どぞう」
「はは、何や全然言えてへんでー」

思わず噛んでしまったのを拾われてしまって顔が熱くなるのを感じつつも靴を脱いで家に上がる。
謙也さんも続いて靴を脱ぎ、もう一度お邪魔します、と言って上がった。
泊まるのは初めてでももうウチには何度も遊びに来てるから、先に部屋に行ってもらった。

「謙也くんは牛すじと青汁が好きやから、頼むで!」
「はいはい、そない何回も言わんでも分かってるから!それにしても謙也くんていつ見てもイケメンやわ〜…お母さんかてあと10歳若かったら…」
「アホ、あと20歳若かったら、の間違いやろが」

オカンと軽い会話をして俺も部屋に向かう。
ドアを開けると、床に座る謙也くんが見えた。

「なあなあ、光の勝負パンツて何色?」

部屋に入るなりそんなことを聞かれてきょとんとせん奴が居るやろか。
可愛らしい笑顔やなあ…てちゃうちゃう!

「何で勝負パンツなんですか…」
「や、その…今日はな、光ん家泊まらせてもらうから、俺…」
「え……」

そう言われると今日の謙也さん…
いっつもグッシャグシャの髪はふわふわやし…
いっつも汗とかでテカテカなデコ、首筋は綺麗に拭いてあってなんとなくえろ…なんでもあらへん。
とにかく、何かこう…いつもと違うような……

「謙也さん…」
「…ちゃう話しよか、うん!」

顔を真っ赤にして焦り始めた彼の腕を掴んで顔を近づける。

「…風呂入りましょか、部活で汗かいて気持ち悪いでしょ?」
「え…あ、うん……」

2人してどぎまぎしながら脱衣所に向かった。
いつも見てるはずの風景が全く違うように見えて、おまけに見慣れてるはずの謙也さんすら直視できひん。

あぁ、こんな調子であと十何時間、俺は大丈夫なんやろか…



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