校外学習

□●薄れゆく君
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こんな食生活を送っているせいですっかり痩せてしまった僕の体を、フレッドはいつもしてたみたいに抱き締めてくれるだろうか。
…愚問だ。
そもそもフレッドが居たなら僕はきっと普通の生活をしていて、こんなに痩せてなんかいない。

「部屋に戻るね」

重苦しい空気に耐えられなかった。
家族の視線を感じながら部屋に戻る。
左側のベッドに座ると、スプリングが軋んで音を立てた。
まるで唸っているみたい。

溜め息を吐きながら窓の外を見ると、咲き誇った花達が風に吹かれ花吹雪になっていた。
それがあまりにも綺麗で、僕は反射的に向かいのベッドを見た。

「ねぇ見て、フレ…」

ザアア、と風が花弁を巻き上げた。
僕は誰も居ないベッドを見つめたまま、暫く動けなかった。

慌てて本棚のアルバムを数冊引っ張りだした。
荒くなる息を無視してページを捲る。
はやく、はやく!
捲れど捲れど僕ばかり。
違うんだ、これじゃない。

やっと目当てのものを見つけたとき、僕の呼吸はゆっくりと正常に戻っていった。

「あぁ、フレッド…!」

写真の中で悪戯っぽい笑顔を浮かべ僕と肩を組むフレッド。
僕の中のフレッドがくっきりと蘇ってくるようだった。
写真の中の彼をひたすらに指でなぞり、泣いた。
その隣に収まる過去の自分ですら妬ましい。

「フレッド、フレッド…」

僕にとっての1番の恐怖は、フレッドを忘れてしまうこと。
彼の姿を、体温を、匂いを、声を、感触を、全て忘れたくなかった。

それでも時の流れには抗えない。
生きる時の違う僕とフレッドはどんどんと離されていった。

ねぇ、もう一度だけで良いからその甘い声で僕の名前を呼んでよ。
愛してるって囁いて、抱き締めて。
きつく、きつく。
壊れちゃうほどきつく抱き締めて。
お願いだよ。

アルバムを抱き締めたまま床に寝転んでいたら、いつの間にかママが部屋に来て泣き叫んでいた。
瞼を開けようにも、どうも眠たくて無理だ。
やがてチャーリーとパパもやって来て、僕を抱き起こした。
でも僕はもう誰の体温も感じとれなかった。
どうやら僕は、死んでしまったみたいだ。

みんな、ごめんね。
二人も居た社長を両方失ったWWWはどうなるんだろう。
親友をいきなり二人も亡くしたリーは大丈夫かな。
フレッドが死んだばかりなのに、片割れの僕まで死んじゃってごめんね家族のみんな。
お前は望まないだろうに、追うようにして死んでしまった。

ごめんね、フレッド。
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