校外学習

□●シンメトリー
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「サンキュー、悪戯したくなったらまたおいで!」

最後の客を二人で見送り、シャッターをしめた。
人気のない店内で耳当て付きのニット帽を脱ぎ、カウンターに置いた。
そのままレジを開けて売り上げを確認していると、後ろからふわりと抱き締められる。

「何だよ、フレッド」
「今日、帽子のこと言われてたろ」
「あぁ…うん、どうしてフレッドとお揃いじゃないのーって言われたな」

もう俺は帽子を取ってもフレッドと間違えられたりしない。
何故って、右耳が無いからだ。

「やっぱり俺も帽子被るよ」
「バカ、いいよ。結構暑いぜこれ」
「いいんだよ、ジョージが客に絡まれんのが嫌なだけ」

フレッドは優しい。
泣きたくなるほど優しい。
もう俺はこいつが居ない生活は想像もできない。
そもそもフレッドが居ない生活なんて1日足りとも経験したことが無いわけだが。

「コイツはどうしてもファンシーになっちまう。そんなのイケメン担当のフレッドに合わないだろ?」

俺は顎で帽子を指すと冗談っぽく笑った。
フレッドの鼻息が首筋に当たる。

「…くすぐってーよ」

くすくす笑いながらガリオンやシックルを指先で弄る。
もうとっくに計算は済んでいるのにそれを告げないのは、フレッドと離れたくない俺の我が儘だ。

「…ほんとは嫌なんだろ?隠すのも、かと言って喋ることで可哀想だって周りの目が変わるのも」

流石は双子、といったところか。
俺のぐちゃぐちゃでもやもやしていた気持ちは、ふたりの体のくっついたところからフレッドに流れ出てしまったらしい。
俺の中のそんな気持ちは彼の口から発せられることによって具体的になり、納得でき、やがては綺麗さっぱり無くなった。

「…もうどうでもいいよ、言ったところで返ってこないんだ。…俺の右耳が無くてもお前が愛してくれるなら、それでいい」

フレッドは俺の体をさらに強く、ぎゅう、と抱き締めた。
苦しくはなく、逆に心地好いばかりだった。

「どんな姿になったって、愛してるのはジョージだけだよ」

フレッドは穴があいてるだけの右耳にキスをする。
少しだけ、切ない。

でもその言葉だけで俺は、
右耳どころか両腕に抱えきれないほどのガリオン硬貨を手に入れた気分だよ。
いや、それ以上。
この世のどんな人より幸せな自信があるさ。
もちろんマグルも含めてね。

「…俺もお前だけだよ、フレッド」

俺の体を抱き締める腕を緩めさせ、くるりと方向転換してフレッドの首に両腕をまわした。
目が合うとどちらともなく唇を寄せ、重ねる。

「ん、」

やがて舌同士が絡んでは離れる。
毎度毎度コイツとのキスは気持ちが良くて、止めどころが分からない。
やはりDNA100%の成せる技だろうか。
心も体も、相性が良すぎるんだ。

「フレッド…在庫確認しないと、」

浅く息を吐きながら、思ってもいないことを口走る。
相手がすっかりその気になっているのは手に取るように分かるし、俺だって例外ではない。

「意地悪だな、ジョージは」
「お前の相棒だからね」

言うなり顔を見合わせ、競争するように階段を駆け上がって寝室に飛び込んだ。
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