その他テニス

□●前髪越しの恋
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「鳳」

まだ宍戸先輩が消えてった部室の方向を見つめている相手の名前を呼ぶ。
あからさまに肩を跳ねさせて驚いた様子。

「な、なに?」
「アップ代わりにラリーするから相手になれ」

…なんでこんな事務的な喋り方しか出来ないんだ自分。

「あ、うんいーよっ」

ずっと抱き締めていた先輩のラケットをベンチに置いて、自分のラケットを持ってくる。

「…やる」

ポケットに入れているボールを一個掴んで相手に投げる。
ただサーブ権をやるだけでこんなに緊張している自分が情けない。

「サンキュ、じゃあ行くよ〜」

ぱし、とボールを受け取ると、彼ご自慢のスカッドではなくやさしいサーブ。
まぁラリーなんだから当然なのだが。
なんだか元気の無い鳳に向かって、少し強めのリターン。

「何だよ、日吉ちょっと本気モード?」

にこにこと笑いながらボールを返してくる。

「さっきのボールなんて30%の力も出してねぇよ」

最近切り揃えたばかりの前髪を揺らしながら、また強いボール。

「長太郎ー」

宍戸先輩の間延びした声と共にコートの入口が開く音。


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