【ゆきに恋してる】
ケンちゃんは喫煙ルームで休憩中。
テツ君は別件でスタッフ達と共に出払っている。
俺にとっては嬉しい偶然。
ハイド君と、二人きり。
「わっ、雪降ってる!!」
無邪気な声ではしゃぐハイド君が、窓辺に駆け寄る。
目で追った先の窓の外を見れば、確かに、灰色の空から雪が舞っていた。
「積もるかなぁ」
窓の外を眺めるハイド君は、俺の位置からは後ろ姿しか見えないけど、その弾んだ声からどんな表情をしているか容易に想像出来て、我知らず緩む口元。
「積もるといいね」
「ユッキーもそう思う!?」
弾かれたように振り向くハイド君は、満面の笑みだ。
「うん。積もったら嬉しいよね」
だって、そしたら君は、もっともっと嬉しそうに笑うと思うから。
ハイド君の喜ぶ顔が見れたら、俺も嬉しい。
「じゃあ積もったら一緒に雪遊びしよな」
「うん」
ハイド君の子供のようなお誘いに、微笑みながら頷く。
この年になって雪遊びに誘われたのなんて初めてだ。
だけど悪くない。
ハイド君となら、何だって嬉しい。
そんな単純な俺がいる。
「ハイド君って、ほんとに雪が好きだね」
再び窓の外を眺めだしたその背中に話しかけると、ハイド君はまた振り返って、ふわりと笑った。
「うん。オレね、ゆきに恋してるんよ」
その笑顔にも頬が熱くなったけど、それ以上に、“ゆき”のイントネーションが曖昧で、ドキリとした。
ねぇ時々、勘違いしそうになるんだ。
恋の行方を。
君があの、優しく舞い落ちる雪のように美しく笑うから。
俺と君が男同士である以上、この恋が報われる事なんてないのにね。
でも。
恋人になれなくても、その境界線ギリギリまで近付きたい。
傍へ、行きたい。
腰を上げて、俺も窓辺へと歩み寄り、ハイド君の隣に並び立つ。
静かに降り続く雪を眺めながら、隣にいるハイド君を想った。
「俺も、恋してるよ。雪に」
あの雪のように儚く優しい君に。
恋してる。
END
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