置き詩

▼書込み 

09/30(Wed) 21:06
行かなきゃ
香焚炭

何かに縛られて生きるのが嫌で
例えばお母さんとか先生とか
実家とか地元とかさ
だから全部捨てて
ひとり自由になってみたんだけど

夢のためになんてカッコつけて
手ぶらで上京した18歳の春
混合う電車やスクランブル交差点や
賑わう商店街や行き交う雑踏が
あまりにも虚しいと感じた春…

聞いた話によれば
孤独に勝てる者だけが
自由に翔ぶことができるみたい

それでもひとりで頑張って
涙も汗も惜しまず流した夏
太陽を見ることもなく
朝から夜まで働いて…
やがて秋が来れば 涙も枯れた

明日なんて来なきゃいいのに
そういいながら眠りにつき
日が昇る前に部屋を出る
そんな風にしてちょっとずつ
訪れたのが冬だった

冬の風を感じた
風とともに絶望を

ボロ切れのようになった薄っぺらな夢
私はそれにくるまりながら
冬の夜を過ごす覚悟を決めた
何かに取り憑かれた顔をしてた私
それはもう自由とは呼べない顔

神様は無慈悲
凍て付いた私を見つけて
それから私が握り締めてるボロ切れを見た
じっと見つめたあと
私のその唯一の持ち物に火をつけた
火はなかなかおさまらなかった
成す術もなく
ただその火を見ていた
ただ ただ…

そこへ君が現われた
「火にあたらせてくれないか」
寒さに表情を凍りつかせて

君と座って長い話をした
神様がつけた火にあたりながら
暖かいと思った

時間は永遠ではなかった
君は短くお礼を言って
「それじゃまた」
と背を向けた
私は君を引き止めた
「行かないで」
だけど君は歩いていった
私は結局君についていった

向かう先は分からないけど
私は君と歩いて行く
今も歩いている
私は君に 君は私に歩を合わせながら…

誰かのために生きるのも
案外悪くないみたい

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