□※眩惑の魔窟
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 全く訳がわからなかった。見知らぬ老人に地下迷宮から宝を見つけてくるように言い渡され、返事をする間もなくこうしてそこに送り込まれてしまった。
 供の者は五人ついているが、どれも素人で役に立たない。装備が整えば経験は多少はカバーできるが、それすらなっちゃあいない。戦士の剣は獣の肉さえろくに切れず、僧侶の防具は布一枚。盗賊が一人いるが、こいつが無事に宝箱を開錠しているのなど見たことがない。必ず毒針や爆発の罠に引っかかるものだから、持参した薬はこいつが全て使い切った。薬が切れても自重せずに宝箱に挑むものだから、ついに治療にあたっていた僧侶までもが疲弊してしまった。
 一体迷宮で何時間過ごしただろう。簡単な地図を渡されていたから始めのうちはよかったが、転送床でまったく別の場所に飛ばされてからというもの、歩けど歩けど同じ景色が続いていた。ここがどこなのか、検討すらつかない。熟練した魔術師なら呪文を使って一瞬で入り口に戻れるそうだが、目の前にいるのは呪文書なしでは何も唱えられない青二才だ。
 歩くに従って、次第に現れる魔物が強くなってきた。こちらの力が弱っている、とも言えるだろう。俺の他に前衛を任されていた二人の戦士は、魔獣の牙に鎧を貫かれて絶命した。後衛の三人も終わりの見えない戦いに心身共に疲れきり、ついにその場にくずおれた。だらしがないと思うも、ここにきて人のことは言えなくなりつつあった。傷を負ったパーティーメンバーを庇うため、俺が盾になっていたからだ。戦い慣れていたおかげで負傷することはなかったが、精神から来る疲れが重くのしかかっていた。兵糧はとうに尽き、喉は渇きでひりついた。それでも自分が挫けるわけにはいかなかった。なんとか声を絞り出し、三人の中でもまだ喋れる状態にあった魔術師に手を差し出す。
「立てるか?」
「すみません。私は……他の者ももう限界のようです。私達の未熟さを、どうか……」
俺は思わず目を背けた。戦場で何人もの兵士の命を奪った自分が、目の前の人間の死に臆病になっているのがおかしかった。自分もいずれああなる、その考えが頭から離れない。
「くそ……」
戦いはあの日で終わったと思っていた。だが、現に俺はあの時のように戦っている。味方を庇い、それでも守りきれずに。俺に安らぎの日はないのだろうか。わかりきったことを自問しても、生み出されるのは虚しさだけだった。

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