□異邦人
1ページ/4ページ

 馬鹿な奴。以前の俺だったらそう思ったかもしれない。俺は他のラグズほど種族差別はしないが、無意識の領域ではそんな奇麗事は抹消されてしまうらしい。
 俺はベオクが嫌いというわけではなかった。確かに彼らの過去の罪は許し難い。が、そんなものにいつまでも囚われていても何にもならないとわかっていた。
 恐れが無かったといえば嘘になる。だが、この溢れ出す好奇心と、好意のようなものは決して嘘ではなかった。だから俺は手を差し伸べたんだ。

 あの日は確か雨が降っていた。雨の中で何をしていたのか、あいつはずぶ濡れで顔を蒼くしてがたがたと震えていた。自然の雫から身を守る術を持たないベオクが、何をやっているんだか。一瞬呆れたが、面白い奴だとも思った。俺を見ても全く動じない。ベオクは俺達を獣としてしか見ないというのが、当時こちら側の常識だった。
 しかしあいつは驚く素振りを少しも見せず、侮蔑や恐怖といった感情も抱いていないようだった。小刻みな震えは単に寒さから来るものだろう。
「今火を焚いてやるから、これで少しでも身体を拭いておけ」
「すまん……」
手拭いを渡すと、あいつは申し訳なさそうにそれを受け取った。俺はこの男が喋ったのが嬉しくて、つい色々と尋ねてしまった。今から思えば、なんて可哀想なことをしたのだろう。あの時あいつは寒さや疲労でそれどころではなかったというのに。
 アイクと名乗った男は食事を済ませると、暖かさのためかすぐに眠ってしまった。余程疲れていたのだろう。眠りたいと言えば寝台を貸したのに。俺はアイクの見かけよりも重い身体を持ち上げると、そっと寝台まで運び、毛布をかけてやった。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ