□※紅い爪牙
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 アイク率いるクリミア軍は最後の拠点であるなりそこないの魔塔を無事通過し、後は王都に向かって進軍するのみとなった。
 連日の激しい戦いで兵の消耗は目に見えていたため、アイクは天幕を張って各自休息をとるように指示を出した。彼自身も相当疲れが溜まっており、少しでも緊張を解いたらその場にへたり込んでしまいそうな程だった。それでも周りを鼓舞するために疲れを見せないよう振舞っていたが、一部の者には隠しきれなかった。兵士への声かけを終え、ようやく天幕に戻ってきたアイクを鷹王が労う。
「兵士と話す時間を設けるのは結構だが、お前も早く休んだ方がいい。将がそんなことでは、士気が下がるぞ」
「鷹王……。皆にも悟られてるだろうか?」
「ベオクの連中の殆どは気づいていないだろうが……。まあ、こんな状態で疲れない方がどうかしてるだろう。さっさと終わらせて羽休めしたいもんだ」
「あんたとは一度、ゆっくり話がしたいと思ってる」
「それは俺も同じだ。お前は俺が今までに会ったどのベオクとも違って興味がある。
 さて、取り敢えず今日は休んでお互い英気を養わないとな」
「ああ。少しでもあんたと話せてよかった」
鷹王が仲間の所に戻るのを見届けると、アイクは既に用意されていた天幕に入る。
 やっと腰を下ろすと今までの疲れが一気に押し寄せてきた。自分一人になれて張り詰めた緊張が緩み、布団も敷かず、習慣だった武具の手入れもそっちのけで横になる。そしてそのまま瞼を閉じた。

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