□※最期の罪
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 仕事の依頼は時期や情勢によって量が全く違う。どの職種にも同じことが言えるが、とりわけ傭兵はそれが顕著だった。例えば王都で催し事があればその警備につくか、ここぞとばかりに勃発する地方の反乱を治めに行く。
 この頃は治安も悪くなく経済も安定していて、賊が出没する事も少なくなった。出たとしても自警団の手に負える程度で、わざわざ傭兵が出る必要もない。
 そのような時は団員もようやく羽根を伸ばせる。それでも万が一の急襲に備えて油断は禁物なのだが、日帰りでどこかに行けるくらいの時間の余裕は確保されていた。
 団長グレイルも久々の休暇に、息子のアイクを連れて街に行く計画を立てていた。思えば今までタイミングが悪く、息子と遠出をするのは初めてだった。
 アイクはまだ見ぬ街に想いを馳せ、わくわくしていた。街の話は団員から度々聞いていたので、ぜひとも実際に行ってみたいと強く願っていたのだ。それがとうとう叶おうとしているのだから、聡いアイクは父が支度をしているとすぐにそれと感じ取った。
「街に行くの?」
「ああそうだ。たまにはお前にも美味い物を食わせてやろう」
「やった! 楽しみだなあ」
そうアイクは嬉しそうに言うと、顔を綻ばせて父に抱きつくのだった。アイクの頭の中には、話に聞いた数々の楽しげな光景が広がっていた。父との新鮮な思い出が作れると思うと、じっとなどしていられなかった。

 子供はまだ知らない。街がいかに人の心を惑わせ、その惑いから何が生まれるのか。彼はそれを身をもって知ることとなる。

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