□※本日限定XX
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 朝から頭が重い程不快なことはそうない。意識が朦朧とし、眩暈がする。ここ数日風邪気味ではあったが、今日になってついに体内の病原体が本格的な活動を開始したのだろうか。
 もしかすると寝起き故に調子が悪いのかもしれない。そう思ったアイクは何度か寝返りをうったり、再び目を瞑ってみたりして、早く回復することを願った。しかしいくら期待してみても頭の中の霧と鉛は振り払われることはなかった。
 だからといっていつまでも横になっているわけにはいかない。アイクは病身に鞭打ってなんとか起き上がると寝巻きを脱ぎ、普段着に着替えた。胸の辺りを中心に、身体全体に違和感を感じたが、重い頭のせいにして気にもかけなかった。
 壁に手をつきながら、やっとのおもいで洗面所にたどり着く。霞んだ視界に飛び込んできたのはどうやら妹のミストのようだ。普段ならば洗面所を使用するタイミングがぶつかることはない。恐らくもう朝食を食べ終わり、歯でも磨くところなのだろう。
「お兄ちゃん!? どうしたの、それ……」
突然ミストが頓狂な声を上げたので、また頭が痛くなる。一体なんのことだ、と言おうとした途端、物凄い速さで今来た道を逆戻りしている感覚に襲われる。実際に移動しているような感覚が伴う眩暈を経験したのは初めてだった。憎き病だが、ここまで酷いとかえって誇らしく思えてくるのだから不思議なものである。

 アイクは投げ出されたような浮遊感と、次の瞬間には懐かしき温もりを感じた。ふわりとしたそれに顔を埋めると、嗅ぎ慣れた匂いがする。どうやら眩暈のせいではなく、本当に移動をしてしまったように思えた。雰囲気からして、ここは自分の部屋らしい。
「本当にどうしちゃったの?」
ミストが心配そうに尋ねる。兄のすっかり変わってしまった姿を他の団員に見られるわけにはいかなかった。公衆の面前に晒される前になんとかしなくては、とアイクを元いた部屋に引っ張って行ったのは他ならぬ彼女だった。
「どうって……風邪が酷くなっただけだ」
「そうじゃなくって……ほら、自分で気づかないの?」
アイクの手を取り、突然変異した身体の部分に当てさせる。そこは柔らかく丸みを帯びており、力を入れると潰れるような感触があった。
「なっ……! これは……」
本来ない筈のものがそこにはあり、それが与えた衝撃によってアイクを取り巻く靄は瞬く間に解消されてしまった。視界がクリアになり、自分の手で触っている物が何なのか一目でわかるようになった。
「俺の身体が……女に……?」

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