□※ひとつ分の
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 アイクは目の前の自分によく似た存在にぎょっとする。それは向こうも同じで、やや大人びた顔には驚きの表情が浮かんでいる。
 彼もまたアイクと名乗った。何が原因でこの同じ空間にいるのかわからないが一つだけ言えるのは、彼が数年後のアイクだということだ。つまり時間軸を超えた同一人物である。
 アイクはそれを聞いても今ひとつ理解できなかった。なぜなら彼は今の自分からは想像もできないほど筋骨隆々で、それなりの風格を漂わせていたからだ。自分の将来が既に定まっているのは薄気味が悪かった。
 試しにアイクは、自分以外では一部の者しか知らない自分の身の上について色々聞いてみた。誰かが術か何かで悪戯をしていると思った。そして頭の隅では彼の存在を否定していたからだ。
 しかしその期待も虚しく、彼の答えは完璧だった。しかもまだアイクが知らないことまで話してみせたのだ。さすがのアイクもこれには驚き、彼が本物だと納得せざるを得なかった。

 稽古等を一緒にするうちに二人は親しくなり、兄弟のような仲にまで発展した。同一人物だけあって、言葉を交わさずとも意思疎通できることが大きかったのだ。アイクは次第に大人びた分身を兄貴と呼ぶようになった。
 しかしお互い地が露になるにつれ、兄アイクが異常な性癖の持ち主であることに気づく。彼はいつでもアイクと一緒にいたがり、稽古の後のシャワーには必ず乱入してくる。始めのうちは無頓着な性格なのだろう(ああはなりたくないな)と思っていたが、そうではないらしい。彼は同性に興味を持っているのだ。アイクに対してのみ粘着するから、無差別というわけではないようだが。
 分身に好かれるのも妙な感覚だ。自己愛とでも言えばいいだろうか。アイクは自分を過大評価した記憶は一度もない。もしかすると今まで認識していなかっただけで、意識の水面下ではその気があったのかもしれない。
 気がつけば分身のことばかり考えるようになっていた。良くも悪くも分身の存在はアイクの心を揺さぶった。
「兄貴は俺のこと、どう思ってるんだ」
ある日、唐突にアイクは尋ねた。

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