□※秘め事
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 雨が降っている時でも傭兵団の者は気を抜かない。急な依頼にも迅速に対応できるようにしておく必要があるからだ。
 湿気が多いと調子が狂うため大抵は武具の手入れをして過ごすのだが、アイクと血気盛んなボーレは屋内の訓練場で各々訓練用の武器を手にしていた。
 現在は休憩中なのか二人は床に寝転び、火照った身体を冷ましていた。訓練場には熱気がこもり、二人が先程まで激しい訓練に勤しんでいたことがわかる。
 ボーレは気だるそうに立ち上がり巨大な水差しからカップに水を注ぐと、それをアイクに渡した。水は幾分ぬるくなっていたが、それを飲み下すと生き返るような心地がした。
「まだ続けたそうだな。あと少ししたら再開するか」
「ああ! 始めに比べて、お前もちょっとは強くなったようだな。まあ俺には敵わないけど」
アイクはいつもの通り言われるままにしておき、一気に水をあおった。
「ん……何だ、あれ?」
「どうした、ボーレ」
ボーレが不思議そうな顔で訓練場の隅を指さしているのでそちらに目を向ける。するとそこには茶色い古ぼけた包みのようなものが無造作に置かれていた。
「誰かの忘れ物だろう。気にするほどの物でもない」
「開けてみようぜ。いいものが入ってたりして」
アイクは包みには無関心だったが、ボーレは気になって仕方がないらしい。放っておけというアイクの言葉を聞かずに、包みを抱えて側に持ってきた。
「この雰囲気といい何といい、珍しいものの予感がするな」
言い終わらぬうちに包みを剥ぎ取ると、中に入っていたのは一冊の本だった。表紙は黒く塗り潰されており、ぱっと見ただけでは内容を把握できない。
「おかしな本だ。魔導書か?」
さすがのアイクでも好奇心が頭をもたげてきたのか、手を差し出す。魔法は苦手で魔導書にも触れたことはないが、他の分厚い本を彼は知らなかった。
「なんだよ。まずは発見者の俺が開くんだ」
ボーレはいつものようにおだけてみせ、適当にページを開いた。

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