□セパレーション
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ジッ・と見つめていると、「…遊ぶくらいなら返せ」と取り上げられた。遊んでいるわけではないのに・と不満に思いながらも、蓮二はそれが弦一郎の照れ隠しだと気付いているので何も言わない。
「…俺にとってはお前の方が落ち着くがな」
「俺が?しかし俺は黒い物など持って居ないぞ」
「黒だとは言っていないし、物じゃなく者だ」
帽子を被りながら、弦一郎はそう言って蓮二を見つめる。


「俺には蓮二がいれば、それで良い」


「…っ」
思わず目線をそらす。普段は鈍感なくせに・と蓮二は心の中で毒づいたが、一番悔しいのは自分が喜んでいるという事実に対してだ。
「…頬が赤いぞ」
優しい声とともに、弦一郎がフワ・と頬を撫でる。まるで花弁が触れたかのようなそれに、蓮二は大袈裟に肩を揺らしてしまった。弦一郎が面白がっているのが雰囲気でわかる。
「っ、…弦一郎、もう見るな!」
「うわっ」
尚もずっと降り注ぐ優しい視線に耐え切れなくなり、蓮二は弦一郎の帽子のツバを握り、思いっきり下げる。殆ど身長が同じなので、コレでもう顔を見られる心配は無い。
そのまま、グイ・と引っ張って。

「っ」


帽子の上から、弦一郎の額に口付けた。


「蓮二、放せ。首が痛い」
「…俺で遊ぶお前が悪い」
「悪かった」
「もう笑うな!」
意趣返しも済んでスッキリしたのか、ペシ・と弦一郎の頭をはたいて蓮二は帽子を放した。小さくため息を吐きながら弦一郎は帽子を正す。
「もうそろそろ時間だ。コートに戻るぞ」
「…あぁ」
クル・と向けられた背中に未だ優しい視線を注ぎながら、早咲きの桜には目を向けず弦一郎は歩き出した。
「午後のメニューについて話したかったのだが、何の話も出来なかったな」
「…お前が悪い」
「まぁ、俺はお前と過ごせたから満足はしているが」
「〜っ、まだ言うのか!」
「やっとこっちを向いたな。って殴るな!」
相変わらず手が早いぞ・等ふざけあいながらコートへ向かう二人を、早咲きの桜だけが見ていた。






―あとがき―・―・―

帽子にキスをする蓮二が書きたかっただけ。
私の中の蓮二は、本気じゃないですがすぐに手が出るイメージです。

―・―・―・―・―

これ書いた後にニュース見てびびった。東京・て満開なんですね…(関西三分咲未満)


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