□足りないくらいだけど
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最初は苦手な奴だった。
最初からテニス上手だったし。
というか中学生らしくないし。
用が有って話す時だって、馬鹿にされているように感じていたんだ。

そうじゃない・て気付いたのはいつだったかなんて覚えてない。

テニスが上手なのは誰よりも努力してるからだ・てわかって。
他人よりも自分に厳しい奴だ・てわかって。
馬鹿にしているわけじゃなく、会話が苦手なだけだ・て言うことにも気付いたんだ。




■足りないくらいだけど




「最初、俺、手塚に嫌われてんのかと思ってたんだよにゃ〜」
「そんなわけないだろう」
だから苦手だったんだよ・と苦笑交じりに菊丸が呟いた。
出会ったばかりの頃は共通の話題も見当たらず、話しかけても無言のままの時も有った。
「あの頃無言だったのは、何を話したらいいのかがわからなかっただけだ。しかし、菊丸が俺を苦手に思っている・と感じる時は有ったな」
「うげ、やっぱし?」
「菊丸は素直だからな」
考えていることが顔に出ている・と手塚は苦笑した。…そんな部分で納得されても、嬉しくは無い。
「素直で居るのは難しいことだから、俺は凄いと思うが」
「…手塚も大概素直だと思うんだけど」
手塚は無口で無表情だ・と言われているが、実際はそうでもない。現に今、気心の知れた仲の会話に口元を緩めている。
…それに気付くのは、手塚の性格に慣れた人物では無いと難しいのに変わりは無いけれど。
「でもま、あの頃の俺達が今の俺達を見たらビビるだろうけどさ!」
「………」
家の方向が正反対なおかげで校門で別れる二人だが、それでも途中まで一緒に帰ろうと菊丸は手塚が部誌を書き終えるのを待っていた。窓の外を見てみるとすっかり暗い。最初の頃は「先に帰れ」と言っていた手塚も、菊丸にその気がないと悟ったらしく、もう何も言わなくなっていた。

こうして、部室で手塚を待てるのも、あとどれぐらいなのだろう。

「…俺、テニス部入ってなかったら絶対手塚と関わらなかったよな〜」
「菊丸?」
暖かくなってきた気温を思い、思わずボソリ・と英二は呟く。この前まで雪が降っていたというのに、もう上着は不必要な温暖さである。
菊丸の言葉に反応した手塚は、書いていたペンを置き顔を上げた。
「だって俺だよ?手塚だよ?生徒会とか、俺今まで無縁だったもん」
「だろうな」
「だろうな・てわかってんじゃん」
さて、もう出ようか・と部誌を書き終えた手塚が鞄を取り立ち上がった。菊丸もそれにならい立ち上がる。
(あぁ、もう明日まで会えない)
グラウンドから校門など、本当に僅かだ。
「…先ほどの話だが」
「ん?」
校門に到着し二人は立ち止まる。校門の周囲は街頭が少なく、ここは相手の顔がはっきりと見えないから菊丸はあまり好きでないのだが、そんな我侭は言っていられない。
「テニス部に入らなかったら俺と関わらなかった・の続きだ」
「あ、うん」
「だから俺はテニスに感謝しないといけない」
「は?にゃんで?」
キョトン・としている菊丸に、菊丸にだけわかる微笑を向けて。
手塚は、自分の左腕を撫でながら、こう言った。



「俺と菊丸を出会わせてくれて、ありがとう」



とな・と手塚は言い終わると、菊丸の右手を撫でた。
「………手塚・て本当にサラリと」
「なんだ?」
「なんでもにゃい!」
「そうか」
菊丸は自分の右手に置かれた手塚の腕を取ると、ギュ・と強く握った。
そしてゆっくりと、名残惜しそうに手放した。
「…それじゃ、また、明日」
「あぁ、また明日な」









「今日、寝れなかったら手塚のせいだかんな!」
「それは困るな」



―あとがき―・―・―

「塚菊は最初仲悪そう」という友人の一言に萌えて書いた。
ネタは気に入ってるけど文が気に入ってないので、もしかしたら書き直すかも。



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