□尚更、寧ろだからこそ
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あいつは、こんな俺を好きだと言う。





■尚更、寧ろだからこそ





「やっなっぎさーん!」
「赤也か。どうした?」
「見かけたから声をかけただけっす♪一緒に帰りましょう!」
「………」

部活からの帰り道、蓮二は賑やかな声に振り向いた。そのまま目線を下げれば、ニコニコと無邪気に笑う後輩の笑顔が目に入る。
切原は、柳を好きだと言う。
その「好き」という気持ちに後ろめたい物は皆無なのだろう。皆の前でも憚りなく言うものだから、近しい友人達にとっては慣れたものだ。

(俺にとっては毎回不思議で仕方が無いのだが)

柳は、自分のことを精市のような大輪の華でも、弦一郎のように根を張った大樹でもない・と思っている。
それでも切原は、時々「柳さんは誰よりもキレイっす」と満面の笑みで言うのだ。因みにその台詞も近しい友人にとっては慣れたものだ。

「センパイは今日もキレイっすね」
「…赤也、その台詞の度に訂正している気がするが、敢えて今回も言おう。俺は綺麗ではない。と言うか、そういう台詞は女子に言ってやれ」
「だって、そう思うんスから仕方ないっスよ〜」

ニコニコ・と切原が告げる。このやりとりもほぼ毎回やりとりしている気がするが、柳は深く考えないことにした。
(可哀想だ・と思う。こんな俺を「好きだ」という切原が)

「なぜ、赤也は俺なんだ?」
「? 何がっスか?」
「俺よりも精市や弦一郎に憧れを持てばよかったものを、何故俺なんだ・という話だ」
「げ、俺が部長と副部長に?絶対いやっスよ!」
「………」

柳は、自分が切原に好かれる理由が皆目見当付かなかった。
口はこのように言ってはいるが、切原があの二人に憧れている事は部内でも有名な話だ。勿論柳も気付いている。
しかし、彼が行動を起こすのは柳に対してだけだった。

「俺はこのように面白みも無ければ、あいつらのように存在が大きいわけでもないと思うのだが」
「…だって俺、好きなものは近くでずっと見てたいんスよ」
「?」
「それに、俺は柳さんが「好き」なんスよ?憧れじゃ無いっス!」
「? だからそれは俺に憧れていると言う話だろう?」
「あ〜……うん、知ってたけど先輩ニブいっスね…」
「なぜいきなり俺の話になるんだ」

不可解だ・といわんばかりに柳は眉根を寄せる。切原はハァ・と盛大に溜息を付いでしゃがみこんでしまったが、すぐに復活したようで、飛び跳ねるつもりか・と言わんばかりの勢いで立ち上がった。ぶつかりそうになった柳は思わず仰け反る。二人とも鍛えて居るのでバランスを崩したりはしなかった。




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