□役目
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「なぜ、本気を出さない」

少し呆れたように、弦一郎は呟いた。




■役目




着慣れないジャージに袖を通す。
不慣れな場所での生活のリズムにはあっさり対応してくれたこの体が、このジャージにだけは慣れないというのも不思議な話だ・と蓮二は自分自身の体質を不思議に思った。

「良かったな、弦一郎。選抜に選ばれて」

朝食のために移動を開始する。同じ部屋に割り当てられているので弦一郎と蓮二は必然的に同時に移動をすることになるのだが、やはり「立海」の「柳」と「真田」は目立つらしい。皆が居る時間帯に話をしている時はアチコチから視線が降り注いでいた。

「………」
「弦一郎、返事くらいしたらどうだ」
「………」

朝食開始には少し早いこの時間帯にすれ違う人は居ない。

「…なぜ、本気を出さんのだ」
「やっと口を開いたかと思えばまたその台詞か」
「当たり前だ!俺だけ選ばれるなど納得が…」
「それが初日に青学へ喧嘩を売った奴の台詞か」

ペシ・と帽子の上から弦一郎の頭をはたく。弦一郎が合宿初日に青学のメンバーに喧嘩を売ったのは、合宿参加者の殆どが知っている事である。
そしてそんな弦一郎は、おなじく立海のレギュラーである蓮二に選抜の話が持ち上がらないのが、とても不満なようだった。

「蓮二、現にお前は積極的に選ばれようとしていているようには見えないぞ」
「…そうだな。弦一郎は間違えては居ない」
「やはりか。何故だ?」
「俺に聞くばかりではなく、気付いているのなら少しは自分で考えろ。一体俺は誰だ?弦一郎」

自分で考えるつもりが無い弦一郎に、蓮二はフゥ・とわざと盛大にため息をつき、そういえば弦一郎は国語よりも数学のほうが得意だったと思い出す。
少し頭を回転させてやれば、弦一郎ならばすぐに気付きそうなものを。

「俺は立海の参謀とよばれる男だぞ」
「あぁそうだ。そういう男を俺はお前以外知らん」
「当たり前だ。居て堪るか。そしてこの合宿には有能な選手ばかりがあつまっている。各学校の主力メンバーばかりだ」
「……?」

まぁ青学は全員参加だがな・と蓮二は呟いた。「それでもわからないか?」とわざと背を丸め、下から覗くようにしてたずねる。まるで悪戯を仕掛けている子供のようだ。

「…弦一郎、こんなに滅多にお目にかかれない情報が、拾ってくれといわんばかりに転がっているのだぞ」
「!」

そこまで言って、蓮二はフ・と満足げに口端をあげた。いつも手に持っているノートをヒラヒラと振っている。

「この機会を、『立海の参謀』が活かさないわけが無いだろう?」
「蓮二、お前、まさかわざと」
「お前は先に進み、勝て、弦一郎。選ばれると言うことは、それはお前にしか出来ないと言うことだ」
「………」
「俺は、俺にしか出来ないことをやるだけだ」
「…あぁ、そうだな」

先ほどまで弦一郎の眉間によっていた皺が、綺麗に無くなっている。蓮二が選抜メンバーに選ばれない理由を知り、満足したようだ。
確かに、ここで蓮二も本気を出せば、確実に選抜メンバーに選ばれるだろう。しかし「勝つ」だけならば、蓮二でなくとも出来ることだ。それでは意味が無い。
蓮二は個人として勝ち組に選ばれるよりも、立海が勝てる道を選んだ。それだけだ。

「選ばれたからには、勝て」
「当たり前だ。俺にしか出来ないことらしいからな」
「それでこそ弦一郎だ」

廊下で話し込んでしまったため、先客が居る食堂に足を踏み入れた。大体の選手が選ばれたいと思ってこの合宿に参加しているのだから、収集出来るデータの量も多いのだろう。

「では、また俺は俺にしか出来ないことをやるか」

独り言のように蓮二が呟いた言葉は、喧騒の中に溶けていった。






−・あとがき・−・−・−


■サイト復活後初更新。
■アニメオリジナル話ですみません
■立海メンバーって全員手塚レベルなんでしょ
■じゃぁなんで柳は選ばれて無いんだよ
■………
■きっとデータ収集に熱中していたんだ
■うん、そうに違いない
■という管理人の脳内補完の話


 

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