□あなたがいるから
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「…今日の仁王は一体どうしたんだ?」




■あなたがいるから




普段と変わらない放課後の部活時間。パコン・と気持ちの好い音がアチコチで響いて居る。
そんな中。

「こら、仁王。柳生まで巻き込むな」
「…柳くん」

助けて下さい・と、いつもは優しい瞳が困惑している。
柳生が部室に到着した途端、仁王が柳生にタックルもどきに抱き付いてそのままなのだ。

「喧嘩では無いようだな」
「さぁ…私にも原因はさっぱりでして」

部室に到着した途端この調子だから、2人はまだ制服から着替えても居ない。

「仁王くん、せめて着替えさせて下さい」
「………」

無言で腕の力を強められる。嫌・という意思表示らしい。

「あの、仁王くん」
「仕方が無い。二人は部活を休むと、弦一郎に言っておこう」
「え!?」

既に部室にはこの3人しか居ない。真田は柳生が来るよりも先にコートに居たから、この様子を知らないのだ。
もしこの仁王の様子を見ていたら、無理矢理部活に出させても意味は為さないと判断するだろう。

「仁王の様子がおかしいのは事実だ。そして仁王と一番仲が良いのが柳生なのも事実だ」
「しかし」
「仁王。明日になっても柳生を巻き込むなよ」
「柳くん!?」

戸惑う柳生を余所に、それじゃ・とラケットとノートを片手に柳は出て行ってしまった。
沈黙が降りる。

「…仁王くん」
「………やぎゅー」
「やっと喋ってくれましたね」

自分の肩に有る彼の頭を撫でる。グリグリ・と頭を押しつけて来るその様子は猫のようだ。

「仁王くん。泣いて、居るのですか?」
「泣いとらん」
「そうですか」

では心が泣いてるのですか?
そんな事聞けるはずも無く、恐る恐る柳生は仁王の背中に手を回した。少しだけ仁王の力が弱まる。

「…やーぎゅ」
「はい」
「やぎゅーは、何処にも行かんとって」
「仁王くん?」
「な?」

顔を覗かれる。
今日初めて見た彼の顔は、どこか遠くを見て居た。

「仁王くん、私を見てください」
「見とるよ」
「いいえ。今の仁王くんは、私に何かを重ねて見ています」

柳生は手を動かして、少し離れた仁王の顔を包む。それだけで仁王の顔はくしゃり・と歪んだ。

「私は仁王くんではありませんから、貴方が何に怯えて居るのかは分かりませんが」
「なして怯えとる思うんじゃ」
「違うんですか?」
「…違わんかも知れん」

自分でもようわからん・と、仁王は弱々しく呟いた。

「だったら不安なのですか?」
「………」
「今度は正解の様ですね」
「…やぎゅーには敵わんのう」

柳生は微笑んで、少し表情の和らいだ仁王の頭を引き寄せる。肩に乗せて再び撫でると「子供扱いするんやなか」と怒られた。
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