□セパレーション
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もうすぐ桜が咲く。




■セパレーション




「あ、早咲き」
春休み。
蓮二は部活の昼休みを利用し、昼食後に校内を散歩していた。学校内にある桜並木を見上げると、ひとつだけ、ポツンと存在を主張する花に出会った。
「しかし…やはりまだ満開には早すぎるか」
この季節の色彩は美しい。生き物全てが元気を取り戻すこの季節は、人間ならば嬉しい季節だろう。
「蓮二、ここにいたのか」
「弦一郎?」
長期休暇中にしか味わえない静かな空間を破られ、蓮二は後ろを振り返った。姿勢良く、弦一郎がゆっくりとこっちに歩いてくる。
「………」
「こっちに歩いていくのを見たという奴が居てな。午後の予定なんだが…ん?どうかしたか?」
「…あぁ、いや」

空色
白色
桜色
茶色
若草色
橙色

様々は色彩の空間の中、ポツリと。


「弦一郎のその帽子は良いな」
「?…いきなりどうしたんだ」
「いや、俺にはあまりにも明るすぎるから、それが有るだけで落ち着く・という話だ」
「ますますわからんぞ」
不思議そうに蓮二を見つめる弦一郎に、小さく微笑む。
「セパレーションカラー・という物だ。『色と色の境界に別の色を挿入して、それぞれの色が独立したようにする』配色方法だ。きつい色同士の間に白を置いて和らげたり、明るくぼやける色同士の間に黒を置いて引き締めたりする」
「…で、それがどうかしたのか」
「今は引き締める方だな」
そう言って蓮二は弦一郎の帽子を、持ち主の頭上から奪った。もはや彼のトレードマークとなっているソレをヒラヒラ・と振ってみる。
「それが俺の帽子というわけか」
「そうだ」
空色 白色 桜色 茶色 若草色 橙色。いずれも、春独特の優しい色をしている。
「が、しかし俺にはお前の色が落ち着くらしい」
腕を止め、帽子を見つめる。
最早、彼のトレードマークとなりつつあるこの帽子。たやすく触れる事が出来るのは、部内で自分だけだ・と蓮二は自覚している。


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