□特権
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「…仁王くん、またあなたですか」
「なんや、またやぎゅーか」
「ふざけたイントネーションで呼ばないでください」
朝、ガヤガヤと賑わっていた校門も今は静かだ。
だって今は。




■特権




「あと5分ほどで授業が始まりますよ。よくこんなに遅刻が出来ますね」
「やぎゅーも一緒じゃ」
「違います。私は委員会の仕事です」
「風紀委員も大変じゃの」
柳生は風紀委員で、毎週この時間は担当の教師と一緒にHRには出席せず、制服の乱れや遅刻者チェックのために校門に立っている。
「しかし仁王くん、もうちょっと早く来れないのですか?」
まったく焦っているように見えない仁王に、思わず柳生はため息をつく。
この早朝チェックで早い登校が義務付けられる風紀委員に自ら立候補したというくらいだから、柳生にこの仁王の態度は勘に触るのかもしれない。
「授業はまだ始まっとらんやろ?」
「でも学校は始まってますよ」
「授業に間に合ったらええんじゃ」
「…まったく」
柳生は手に持った記録用紙に仁王の名前を書き込んでいく。時間ギリギリなため周囲に人は居らず、二人で会話していても誰も怒りはしない。柳生は真面目だから信用されているらしく、風紀委員担当の教師すら居なかった。
「…ん?仁王くん、君」
すると柳生がフ・と手を止めた。
「なんじゃ?」
「遅刻しているの、この曜日だけじゃないですか」
「………」
だったら一日くらいもっと早く来れるでしょう・と柳生は呆れたように呟いた。
(この曜日じゃから遅刻しとるっちゅーのに)
「何か言いましたか?」
「いーや、まぁたやぎゅーの小言が始まった思て」
「なっ酷いですよ仁王くん!」
「冗談じゃ、冗談」
いっつも夜番組が面白いんじゃ・と仁王は嘘を言い、ふざけながら二人は校舎へと進んでいく。いい加減に移動しないと授業にすら間に合わなくなる。さすがにそれはやばい。
(…あ〜ぁ、もう終わりか)
二人はクラスが違うため、下駄箱で分かれなければならない。
毎週この曜日だけ、朝の5分だけ、柳生と話すためだけに遅刻していく仁王にとって物足りない別れでもある。
「それでは仁王くん、また部活で」
「おー」
「…そういえば、仁王くんは部活には遅刻しませんね」
「………」
「仁王くん?」
「お前さん、部長達の前で遅刻出来ると思っとるんか?」
「…失言でした」
「ほな、はよ行かんと間にあわんよ」
今度こそ・と軽く手を振り、未練を見せないよう仁王は自ら背を向ける。
背後で柳生も歩き始めたのを感じ、仁王はこれでまた放課後までお預けか・と小さなため息を付いた。
(柳生が居るから毎週遅刻して、柳生が居るから毎日遅刻せんとか言ったら、また怒るんじゃろうな)
しかし自分も単純になったなぁ・と、毎週近所の公園で時間をつぶしている自分を思い出し、仁王は思わず苦笑した。





―あとがき―・―・―

風紀委員と会話できるのは、遅刻者の特権。
柳生は3年間ずっと風紀委員だと良い。



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