□これからもそのままで
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空気が暖かくなってきても海はまだ冷たい。そんな季節には強風も多く。
「っ…」
「おうおう、今の凄い風だったぜよ」
思わず目を瞑り下を向いた柳生は、視界に入った髪を退け顔を上げた。あまりにも突発的な強風だったから少し驚いてしまっただけだ。
「こうも強風が多いとボールにも影響が出そうですね」
「ボレーとかはやっぱり流されるじゃろ」
ボールの回転に更に注意しないといけませんね・と呟いた柳生の前髪をまた風が掻き混ぜた。
「…なん、柳生」
「はい、なんですか?」
「それ、伸びたなぁ」
尚も続く風に諦めたらしい柳生は前髪を押さえながら「は?」と首を傾げる。その仕草も可愛いと思ってしまうあたり、仁王は「末期やのう…」と呟いた。柳生が無反応な所を見ると、どうやら耳には届かなかったらしい。
「あぁ、髪ですか?」
「なんや伸ばしとんか?」
「まさかあなたじゃあるまいし。ただ単に髪を切りに行く時間が取れなかっただけです」
「前髪だけでも切ったら良いんに」
「そうですね。確かに邪魔ですし、軽く切っておくべきですかね」
結構な間切っていませんね・と呟いた柳生の指から、強風が髪を抜き取った。視界が自分の髪で覆われる。
「………」
「あまり経験が無いので上手く切れないとは思いますが…って仁王くん?」
「…顔が見えん」
「は?」
ボソリ・と呟いて近づき、仁王はいきなり柳生の頬を両手を包む。と、そのまま左手だけ動かし顔を半分覆っていた前髪を退けた。
「こうでもせんとお前さんの顔が見えん」
「仁王くん」
「そんなん嫌じゃ」
普段は眼鏡に隠れていて見えない柳生の目が大きく開く。
「いつでもお前さんの顔見たいき、はよ切ってこんしゃい」
「え、な」
恥ずかしい台詞に柳生の頬が熱くなる。顔をそむけようと思っても、仁王に固定されてしまっているからそれもかなわない。
今度は右手も動かし、仁王は前髪を全部のけた。
すると仁王の動きが止まる。
「………」
「あの、仁王くん…?」
「あかん。やっぱ駄目じゃ」
「…は?」

「柳生の可愛い顔、他の奴等に見せとうない」

だからやっぱり切るんやめんしゃい・と仁王は一人満足した様子で頷いた。
「な、ちょ、仁王くん!」
「真っ赤になっとる。可愛ぇの」
「可愛いといわれても嬉しくありません!」
いい加減離してください!と真っ赤な顔をして柳生が言うと、仁王もすんなりと手を離した。本当に満足していたらしい。
「やぎゅーは髪に分け目癖が付いていないき、全部前に落ちてくるんじゃ」
だからどっちかに分け目入れたらましになるぜよ・と仁王は言った。
「分け目癖が付くまで、こうしたるからの」
そう言って、仁王は笑顔で再び髪に触れた。







「…本当に切るのは駄目なんですね」
「だめじゃ!」




―あとがき―・―・―

なぜ柳生は前髪長めなのか・と思って出来たネタ。
この後順調にやぎゅーの視力は悪化します。




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