連載
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わたしは少し大きめの書類を抱え、静かな廊下を歩いていた。
このA4判の数枚の書類は、桔梗先生から葵理事に届けるよう頼まれたものだ。
でも、これはあまり意味の成さない書類である。
恐らく、桔梗先生は葵理事を心配しているのだと思う。
書類を口実に、わたしに様子を見に行かせる事が真意だ。
わたしも何となく葵理事が心配だったから、それを断る事もなく、こうして理事長室へと向かっている。
普段は不真面目な態度や言動が目立つものの、最初のロゴス開放は誰よりも頑なに拒んだ人。
誤解されがちな彼の事を完全に知り尽くしたわけではないけれど、本当はとても優しくて素直な人だ。
わたしは救いたかった。
どれだけ拒まれても、突き放されたとしても。
そうこう考えているうちに、理事長室へ着いた。
理事長室の重厚な扉を前にすると、いつも何となく緊張してしまう。
葵理事はもう学校へ来ているのだろうか。
まだ朝早いこの時間だと、まだ来ていないこともしょっちゅうだから。
わたしは一度深呼吸をして、扉を二回ノックした。
−コンコン
…中から返事は無い。
いるときは大抵、力の抜けたような声でも返事があるのだけれど。
でも、どうやら鍵は掛かっていないようなので、念の為に顔を出しておこう。
「失礼します。…葵理事?」
理事長室の扉を開いて一直線の位置のデスクに、は葵理事の姿は無かった。
やっぱり居なかったか。
とりあえず、机上メモパッドとペンを借りて書類と簡単な置手紙でもデスクの上に置いておこうか。
ところが、視線を右に移すと、こちらからは後ろ向きに設置されたソファの背もたれに、スーツのジャケットが掛けられているのを見つけた。
「あ、葵理事?」
少し驚いて、そのソファを覗き込むと、仰向けに寝転んだ葵理事の姿。
完全に、寝ている。
「葵理事、起きてください。わたしです、珠美です。書類をお持ちしたんですけど」
一応勤務時間で寝ているのは好ましくないというのもあり、肩を揺らして声を掛けてみた。
それでも寝息を立てるばかりで、起きる気配がまるで無い。
どうしよう。
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