短編集

□自分を探す者
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心から友と呼べる者に出会った。
少し変わっていたけれど、以前の自分を彷彿とさせた。

〈自分を探す者〉

−T−

イスター、幻獣と呼ばれる者が住む世界。
ヒトに近い姿をしているも、それは仮の姿。
炎、水、地、雷、光...様々な幻獣が存在する。
炎を宿す幻獣...リオは、その日、ある幻獣に出会った。

「修行しろ、修行しろって、結局悪い所しか言わねぇじゃん...」
文句を言いながら、ぶらぶらと散歩がてらに歩く。
昔、言われた事は全て悪い部分ばかり。
『自分勝手に動くな』だの、『周りをよく見ろ』だの。
「良くなってる所なんてねぇのかよ。...オレの事、強くしてくれる気あるのかよ...」
はぁ、と溜め息を付いて、彼−リオはポツリと呟く。
少し強い風が吹いた。と、同時に幻獣ではないモノの気配を感じる。
一瞬、その気配を感じたと思えば、すぐに消え、幻獣−闇の力の気配に変わった。
「...何なんだ、今の...」
リオはそう呟き、気配の方へ行ってみた。

気配を辿って行き着いた先に、見知らぬ人物が傷を負って倒れていた。
正確には、木に寄りかかる形で座っていた、と言った方がよいか。
幻獣だという事はすぐに分かった。...と、同時に、先程感じた力の持ち主だという事も。
「...誰だ、お前...」
リオは、彼に問う。気を失っている為か、返事は返ってこない。
考えるより先に、行動する方が得意なリオは、あまり治癒術を使うのは好きではない。
が、今はそんな事を言っている場合ではないと思ったのか、その傷を癒す。
「闇の幻獣...そういや前に何か聞いたな...何だったっけかな...」
傷を癒したリオは、呟く様に言う。
暫く考え、ふいに思い出す。以前聞いた話を。
幻獣には『家族』という概念がない。生まれて間もなく、持った力の長である幻獣の元に預けられるから。
...ただ一人、それを拒んだ者がいた。それがその闇の幻獣。
「...まさか、な...」
闇の力なんて珍しくも何ともない。まだ、時空の力の方が珍しい。
「その『まさか』...だ」
背後からいきなり声をかけられ、リオは驚く様に声の主を見つめる。
右の瞳は漆黒の瞳。
「もう、起きても大丈夫なのか?...オレはリオ。お前は?」
リオは彼に問う。が、『関わるな』とでも言いそうに、その場を立ち去ろうとした。
「助けてくれた事には礼を言う。...でも、俺に関わるな」
それを聞いたリオは、何も言わなかった。その時はまだ、自分には関係ないと思ったから。
彼は、それ以上は言わずにその場を立ち去った。
リオはただ一人、そこに残された。
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