Novel.1

□Lesson 2
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「どれどれ‥‥うわっ、こりゃ凄い。見事なまでの瓶底眼鏡だなぁ。僕もこんな眼鏡はお目に掛かったことがないよ」
 と、新潮先生が渡り廊下の天井に視線を向けた、その時だった。

「何っ!? おい! 君、大丈夫か!?」
 突然、彼が天井に向かって大声を上げた。その瞬間、私も未帆さん達もさっきまでの夢見気分が吹き飛んだ。
「えっ? 新潮先生どうかしたの‥‥あぁっ!?」
「きゃっ!」「げげっっ!?」「逆さ宙吊り男!?」

「ぁぁぁぁぁぁ‥‥」
 私達の見上げた視線の先、渡り廊下の2階吹き抜け部分の天井には、足をロープの様なもので結ばれ、逆さ吊りにされた小柄な男子生徒が一人、ぶら下がっていた。
「あの制服、高等部の」
「あの背格好‥‥間違いないわ。高等部の追螺先輩よ」
「おうらせんぱぁ〜いっ! だいじょうぶですかぁ〜っ!?」

「ぐわあぁぁぁぁぁ!! 誰でもいいからっ!! 早くここから降ろしやがれぇぇぇぇぇ!!!!」

 私達の声に気付いたのか、吹き抜け天井に逆さ吊りにされた追螺先輩が、錯乱したかのように大声で吠えた。

「あだまにぢがのぼっぢまうだろがぁぁぁぁぁ!! ごのおれざまをぢゅうぶらりにじだのばっ! どごのどいつだおらんだだぁぁぁぁぁ!!!!」

 何やら意味不明な言葉まで叫んでいる‥‥あの人、ホントに錯乱してるみたい。

 結果、一階渡り廊下には中等部高等部の生徒や先生達の人集りができた。そんな中、追螺先輩は駆けつけた用務員さんと新潮先生によって無事、救助された。
「君、本当に大丈夫か?」
「ま、なんとか‥‥ところで僕のめがねはどこ? めがねがないと何にも見えなくって」
「あ、これ、君の眼鏡だったのか」
 新潮先生は追螺先輩にあの瓶底眼鏡を差し出した。
「あ、これこれ‥‥げげっ!」
 眼鏡を掛けた追螺先輩が、再び吠えた。
「き、君、何処の生徒だっ! 他校の生徒が何で我が学園にいるっ!?」
 追螺先輩はなぜか、新潮先生を見上げ、指差していた。そりゃそうかも。何せ追螺先輩は背がめっちゃ低いから‥‥と、言う私も背が低いんだけど。
「生徒? 僕は教育実習中の教師見習いだが?」
「‥‥へっ?」

 新潮先生と追螺先輩との間に僅かな間が空いた。

「あ、先生でしたかっ☆。これはとんだ失礼を〜(^^;」
「僕は中等部のほうだからね。君達高等部の生徒とは面識がないのはあたりまえかもな」
 その瞬間、どっと生徒達の笑い声が渡り廊下に響いた。そんな中、こんな声も周囲から聞かれた。

「なぁんだ、中等部の先生だったんだぁ‥‥くぅ〜っ! あんな先生と個人授業できたら、毎日がハッピーだろうなぁ〜っっ♪!」
「唯ちゃん何考えてるのっ!?」
「じょ、じょ、冗談よぉ〜蛍ちゃん」

 ‥‥ばかみたい。

 今朝の奇妙な出来事は早速、今日のホームルームの題材となった。あの後学校にお巡りさんまでやってきて見聞をしていったけど、追螺先輩が縛られていたロープには、犯人を断定できるような指紋などの証拠は全くと言っていい程、残されていなかったそうだ。
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