Novel.2

□ミラーのお留守番 〜ミラーと、シチューと、しあわせの時〜
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「あぁ〜んっ! なんでこんな時によびだすのよぉ〜っっ!!」
「はよしぃや、さくら! 知世、てぐすめ引いて待っとるで!」
「わかってるわよぉ! それじゃ、ミラーさん。あとお願いっ!」
「あ・・・・はい。わかりました」

 今日のさくらさんは、何だか慌ただしかった。
 よっぽど大事な用事があるのか、ばたばたと部屋を出て行くさくらさんと、ケルベロスさん。
 いつものお留守番の時とは、何かが違う。

「先行くで、さくら!」
「あ、待ってよぉ〜っ!! フライっ!! ・・・・あぁ〜んっ! 今日、当番なのにぃ〜っっ」

 そんな声だけを残し、さくらさんとケルベロスさんは窓から夕焼け空へと飛び出していった。
 再び静寂が蘇った部屋に一人、ぽつんと取り残された私。
 さくらさんの姿が見えなくなったのを確認し、私は部屋の窓を閉めた。
 今日もまた、私のお留守番の時間が始まる・・・・。


 ベッドに腰掛け、ふいと天井に目をやる。
 静寂に包まれた部屋の中には、目覚まし時計の秒針が一秒、また一秒と時を刻む、そんなかすかな音だけが流れていた。
 何だか、いつもよりゆっくりと時が流れて行くような感じがする。
 お留守番の役目をしたのは、もうかれこれ何度目だろうか・・・・。

 いつもなら、こんな時には必ず、あの人がこの部屋にやってくる・・・・。

 ふいと、あの日の事が私の心の中によみがえって来た。
 衝撃であり・・・・それでいて甘美な、忘れたくても忘れられない、あの日あの時の出来事。
 あの人の声。あの人の肌のぬくもり。あの人の息遣い。
 あの人の・・・・・・

 はっとして、私は自分の頬を押さえた。
 頬が熱い。胸が高鳴っている。それにも増して、私の口元が緩んでいた。

 やだ・・・・私、何か期待してる。
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