Novel.2
□カウボーイビシャス 〜 幽霊(ゴースト)に捧げる挽歌 〜 後編
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「第一主砲、収束率35倍維持。エネルギー充填率、120パーセント・・・・」
ミディはコンソールのモニターを見ながら、音声認識での操作で主砲を調整している。もうすぐ日の出を迎える火星の空の上にステルス船を浮かべて。
下方に見える港にはビバップ号が停泊している。
「船体俯角、45度。・・・・距離、10,000。・・・・誤差角±0.20」
カタカタカタ・・・・
『 Present for you. GHOST 』
ミディの指が端末のキーを叩き、最後に送信のキーを叩く。
ピッ。
『メールが送信されました』
「ターゲット、ロックオン。・・・・主砲、発射」
ブゥッ!
『OK』
フィイィイィイィイィイ・・・・ビシャウッ!
イヤァァァァァァァァァァァァァアァァァアァァアァアァアアアアア!!
ドッ! ズバシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンン!!!!
「どあっ!」「きゃあっ!」「何っ!?」「あやぁ〜っ!?」
キャイン! ギャア〜ッ!
ジェットもフェイも、ビシャスもエドも、アインも鳥も、早朝いきなりの来訪者に肝を潰した。
ミディが放った有質量弾はビバップ号の船首を僅かに外れて、火星港の弱炭酸の海面に激突したのだ。それでもその衝撃波は凄まじく、ビバップ号は波に煽られて岸壁突堤に乗り上げ、座礁した。
「いたた・・・・あっ! あそこ!!」
「む? ・・・・あの船は!?」
フェイとジェットの視線の先、赤い空の上に、朝日に輝くステルス船の船体が見えた。
再びステルスの船首が光り出した。明らかに第二射が来る。
「どうやら、あの船に乗ってる奴が『GHOST』のようだな」
ジェットがそうつぶやいた時、戦慄の色に顔を染めたフェイはモノマシン格納庫に向けて駆け出した。
「お・・・・おい! フェイ!!」
「ビシャス! あんたも来て!!」
フェイに指名され、ビシャスは渋々重い腰を上げた。
「ビシャス・・・・おまえも・・・・?」
「心配するな・・・・俺はあの女の様子見だ」
ジェットの問い掛けにビシャスは間髪なしで答え、そのまま格納庫に足を進ませて行く。
「やれやれ・・・・まさか金に関係しない事に、フェイが首を突っ込むとはな」
ジェットも格納庫に足を向けた。
居間に残ったのはエド一人っきり。アインと鳥はどこかに身を隠しているようで、居間にはエドだけが、床にぺたりと座っていた。
「いってらっしゃあい・・・」
「ジェットぉ! 早くハッチ開けて!!」
ビシャスとジェットが格納庫に来た時、フェイは既に機上の女になっていた。眼光鋭く、頬も紅潮している。凄まじい唸りを上げるレッドテイルのエンジン音共々、ハイテンションになっている証だ。
「早く開けないと、船のどてっぱらに風穴開けて、そこから出るわよ!」
「わかったわかった!! ・・・・全く。殆ど脅迫だ」
渋々ジェットがレバーを操作した。格納庫ハッチがゆっくりと開き始める。
「あの船、絶対に撃ち落としてやるわ・・・・ちょっとぉ! まだなのぉ!?」
「これで精一杯だ!!」
「・・・・ああもう! ・・・・これだからボロ船はやなのよ」
「!! ・・・・あ・ん・に・ゃ・ろ」
「これくらいの事で怒るな」
愛するビバップ号を半ばコケにされ、怒りでゆでだこ状態のジェットに、横からビシャスが話し掛けた。
「お・・・・おめぇ」
ジェットの怒りが一瞬静まった。
「・・・・怒り過ぎは抜け毛の元だ」
それだけは言わないでくれ・・・
ビシャスの付け足しの言葉に心を深々と貫かれ、ジェットは頭を右手でなでながら、泣きそうな表情に変わっていた。
ジェットの心中から怒りが消えたのはよしとしても・・・・。
男ジェット・ブラック36歳。さすがにこの歳で相当退行した頭髪は、今でも多少気にはしているのだ。