〜if〜
□タバコは喧嘩の始まり!?
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放課後の生徒会室で書類の整理をしていたら、ルカがやってきた。
「仕事熱心だな」
おれを見て一言そう言うとソファーに腰をおろし、胸ポケットからタバコを取りだした。
「灰皿」
灰皿って…、あるわけないだろう。ここをどこだと思っているんだ。生徒会室だぞ。いやいや、その前にわかりきっていることだが、ここは学園内だぞ。喫煙をしていい場所ではないだろう。
「ユダ、灰皿をくれ」
もう一度ルカが要求してきた。先程とは違い、単語ではない。
いや、だから単語だろうがそうでなかろうが、問題はそこではない。
「灰皿はない」
おれはきっぱりと言った。
ルカは眉を軽くひそめ、ある一点を指差した。
「じゃあ、そこにあるのはなんだ?」
そこにあるのは紛れもない灰皿だ。
隣には灰皿代わりに使われた空き缶が数缶。
「あれは学園内で喫煙していた生徒から取り上げたものだ。使っていいわけがないだろう」
「ケチ臭いこと言うなよ」
「ケチとかそういう問題じゃない。大体、おまえ風紀委員長だろ?風紀を率先して取り締まらなければならないおまえが、逆に堂々とタバコを吸おうとするな」
「別に好きで風紀委員長になった訳じゃない。それに堂々と吸えないから、ここで吸おうとしているんだろ」
ルカは口にタバコをくわえ立ち上がり、灰皿を取りに動いた。
おれは反射的に立ち上がり、ルカと灰皿が置かれている棚の間に割り込んだ。
「吸いたいなら寮に戻ってからにしてくれ。ここでは吸うな」
本来、寮だろうがどこだろうが学生がタバコを吸っていいものではない。
だが、学園内で吸うよりはマシだろう。
見つかれば、最悪退学問題にもなりかねない。
寮内で見つかっても問題になるだろうが、学園内よりは、はるかに見つかりずらく比較的安全だ。
…安全って、何をタバコを吸うことを認めているのだろう。
今まで、ずっと黙認していたが、この際だ。禁煙させることにしよう。ルカの身体のためにもなるし。
「もういい」
禁煙するように言おうと思った矢先、ルカはくわえたタバコをしまい、踵を返すと生徒会室を出ていってしまった。
閉じられたドアを見つめながらおれは溜め息を漏らす。
おれは悪くない。悪くないはずなのに、何故こんなにモヤモヤとした気分になるのだろうか。
机に戻り、作業の続きをするが、どうにも集中できない。
別に今日中に片付けねばならない仕事でもない。
続きは明日にでも回して帰るとするか。
鞄を片手にドアへ手をかけようとしたら、その寸前でドアが勝手に開いた。
ドアの先にいたのはシン。
「お仕事お疲れさまです。これから帰るところですか?」
「ああ。どうにも作業に集中できなくてね。続きは明日にすることにした」
「そうですか。あの…」
「ん?」
「なんだか疲れているように見えるので、今日は早めに休むようにしてくださいね」
「ありがとう、そうするよ。よし、一緒に帰るか」
「はい」
優しく微笑むシンに心癒されながらおれは生徒会室を後にした。
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