Saint小説

□混沌
1ページ/5ページ



「いらない、おまえ」


冷たく言い放つルシファー。
その手に握られた剣の切っ先からは鮮血が滴り落ちる。


「ぐっ…」


くぐもった声が深紅の血溜まりの中で漏れる。


「人間のままだったら、とうに楽になれたのにな」


低く笑うルシファーの声を聖者は聞き取れているのか、いないのか。
激痛と激しい耳鳴りが聖者の脳を完全に支配していた。


聖者の血にまみれた手が僅かに動く。
ルシファーは聖者の傍らに膝をつき、その手を取ると…舐めた。
血に染まる視界の中で聖者は信じられないと言わんばかり、その動作を見つめていた。
その舌使いが妙に艶かしい。


「不味い」


手から唇を離し、自分の下唇を舐めながら不満を漏らす。
だが、その表情は酷く残虐的な笑みを湛えていた。

ルシファーは立ち上がると、ゆっくりと片足を上げた。
聖者の背中を軽く力を込め、踏みつける。
爪先を背中の傷に食い込ませて弄べば、聖者の身体は小刻みに痙攣する。


その反応を見て満足そうに眼を細めると、ルシファーは聖者の背に馬乗りになった。


聖者の長い髪を鷲掴みにすると、思いっきり引き上げる。


「ぐぁっ…」


激しい痛みの余りな気を失いかけるが、さらなる激痛を与えられることにより失神することすら叶わない。


「痛い?苦しい?」


聖者の耳元でルシファーが愉しげに囁く。

聖者の耳元に触れられていた唇が僅かに下にずれ、首筋に移る。


「っ…!?」


首筋に走った感触に思わず息を呑む。
激痛に火照っていた身体に一瞬、激しい悪寒が走り抜けたのを聖者は感じた。


意識が朦朧とする中、次に聖者が感じたのは唇にあたる感触。
拒絶しようにも、そのような力はもう残ってはいない。


容易く舌で唇を割られ、歯列をなぞられる。僅かな隙間が生じれば、すかさず舌が潜り込まれた。

舌を絡めとられ、弄ばれる。
なんとも卑猥な音が漏れ始めた。
舌を動かす度に、口腔内では唾液が分泌され、口内に広がる血液と混ざり合う。
口の端からは唾液と血液が溢れ出し、顎を伝って落ちていく。


ルシファーは音をたてながら唇を離すと少し腰を上げ、聖者を仰向けにさせた。

血に濡れそぼった上衣を力任せに引き裂く。

露になる血にまみれた胸部。
最早微かにしか漏れなくなった息と連動して上下に動く胸にルシファーは顔を埋めた。

目を瞑り、耳を傾け心音を聞き入っているその表情は極上の音楽に魅いってるかのようだ。

.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ