Helious

□未定
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―薄目を開けると、部屋全体がうっすらと白くなっている。
そして、微かにパンの焼ける香りが漂ってきた。

もう朝が自分の所に来たことに少し苛立ち、
抵抗するかの様に、彼は毛布をかぶりもぐり込んだ。


―コンコン、

『おにいちゃん。入るよ』


雪解け水がゆるゆると流れるような優しい声音だが、
ノックからドアを開けて入ってくるまでの所作は、自分より2歳下のはずなのに
訓練された宮廷人の様に完璧だった。

かぶった毛布の隙間から、薄桃色の髪が見える。


『朝ごはん、できました。』


こちらを覗き込んで、にこにこと微笑む目と合った。


「…オイ」

『ん?』


柔い性格してるが、やる事は完璧にこなす奴。
だが、1つだけ"決まり"を忘れやがった。


「名前。」

『えっ』

「…さっきの呼び方。やめろっつったろ」


そう言うと『でも…』と濁して返してきた。
こういう時は優柔不断だ。
全く、やることはヤったっていうのに


「…じゃあ起きねぇ」

『そんなー…』


―早く、と言わんばかりに金色の瞳が睨みつけている。


『…起きて? ラクサス。』



ベッドの中に引きずり込まれたのは一瞬だった。



「上出来」

『ちょっ、』


抱え込まれながら、額に感じた柔らかい感触。


「続きは夜。」


不敵な弧を描かせながら、足早に歩いていく。
ふと、何かを思い出したように、彼は振り返った。


「…おはよう、モニカ。」

『!』


照れから逸らしていた目を、今度は
「早く来い」と言う代わりにこちらに向けた。

唯一その目に怯まない彼女は、一瞬驚いた後に
目じりを下げながら歩き出した。


『おはよう。ラクサス』
 

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