激的糜芳あふたぁ

□失敗は成功のもと
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 糜芳は上機嫌だった。
 いつものように洛陽まで兄の護衛としてやって来ていたのだが、常連となっていた怪しげな店で「とっておきの薬」とやらを手に入れたからだ。
「これを今夜、兄者に飲ませて……」
 今から夜の事を考えるだけでにやけてしまう。
 糜芳が買ったのは強力な媚薬で、店主曰く「どんなに身持ちの固い女も、不感症な女もイチコロ」という代物。あの敏感な糜竺に使ったら一体どうなるのかと、興味本位で買ってみた。
 ついでに自分用に強壮剤も購入して、長くなりそうな夜に備える。


「子方、どこへ行っていたのだ?」
 路地裏の怪しげな店から少し離れた大きな通りに面した商家にいた糜竺は、ふらふらと出ていってしまった弟を店先で待っていたらしい。
「露店でつまみ食いでもしていたのか?」
「いやぁ…、珍品を見つけたのでつい、な……」
と、掌に収まるくらいの小瓶を見せる。
「玻璃瓶か。なかなか面白い紋様だな」
 糜竺の興味は中身ではなく瓶そのもののようだ。
「そうだろ? 中身がまた面白いんだが、それは宿に帰ってからだ」
 話題を兄に合わせながらも中身があることを匂わす。しかし、糜竺はそれ以上興味がないのか、車にさっさと乗り込んでしまった。
「まっ、待ってくれよ兄者ぁ〜」
 糜芳は慌てて小瓶を懐にしまって車に飛び乗った。車が動き出すと、糜芳は兄にすりよってくる。
「なぁ、いつもは馬で来るのに、どうして今回は車なんだ?」
「特に急ぐ必要がないからだ」
 ベッタリと密着してくる糜芳にも動じず、糜竺は手にした書簡に目を落としながら淡々と答える。
「ふぅん……。じゃ、崔のヤツは何処に行った?」
 崔とは糜竺の従者で、糜竺と肉体関係もある。
「崔か。洛陽の郊外へ遣いに出した。数日は戻らぬはずだが、何か用事でもあるのか?」
「い…いや、ヤツがいるとさ、こんな事ココじゃ出来ないだろう?」
「んっ…」
 糜竺の顎に手を添え、唇を重ねる。糜芳が促すように唇を動かすと、糜竺は弟の舌を受け入れる。
「んっ…ふぅ…ん」
 しばし二人は互いの舌を絡め、唾液を吸い合った。
「やっ、…しほ…ぅ」
 糜芳の手が糜竺の懐に入ったところで糜竺が我に返った。唇が離れると、銀糸が名残惜しそうに二人を繋ぐ。
「お前は直ぐに羽目を外したがる……」
「邪魔が入らないなら俺は何時でも何処でもいいんだよ」
「あふっ……、あっ、ダメだったら…子方!」
「いってえ〜っ!」
 糜竺が、必死に懐をまさぐろうとする糜芳の腕を掴んで捻り上げた。
「糜芳様、どうかされましたか?」
 あまりに大声だったので外に聞こえたらしい。従者が心配して声を掛けてきた。
「い、いや、何でもない。きっ気にするな」
「ですが……。医者をお呼びしましょうか?」
「だから、大丈夫だって! 俺の事はいいから、早く行けよ」
 糜芳は小窓から顔を出して慌てて釈明している。その様子を糜竺はクスクス笑って見ていた。
「な、何するんだよ兄者〜ぁ…」
「こんな所で私を抱こうとした罰だ」
「ひでぇ。じゃ、帰ったら今夜はたっぷり楽しませてもらうからな」
「それは……」
「なんだ? 嫌か?」
 顔を真っ赤にして糜竺は首を横に振った。その姿がたまらなくかわいい。
「よし、決まりっ! お〜い、誰か先に宿に戻って沐浴の支度をしとけ。旦那様がお入りになるからな、たっぷり湯を沸かしておけ」
「はっはいっ!」
 糜芳が再び顔を覗かせて大声を出すので、従者たちは驚いたようだが、その中の一人が糜芳の言葉に応えて走って行く。
「子方、何もそんなに慌てずとも」
「早くせぬと朝になってしまうからな」
「朝に…って、まだ日も暮れておらぬというに」
 糜竺は、また腕を捻られない程度に肩に腕をそっと回してくる糜芳を呆れた様子で見つめる。
「とにかく今夜の兄者は俺のモノだ!」
「分かった分かった」
 鼻息荒く宣言する弟をなだめる。
「ところでさ」
「なんだ?」
「兄者って女はともかく、男とヤったことあるのか?」
「はぁ?」
 「お前が年中やっているではないか」と言わんばかりの顔をする糜竺。
「いや、そうじゃなくてさ。兄者が男を抱いた事があるかって意味だよ」
「お、女子ともあまり経験が無いというのに、男となどっ……」
 別に要らない事まで正直に答える糜竺である。
「へぇ〜。兄者はモテそうなのに女ともヤらないんだ」
 糜芳の言葉にこれまた正直にコクリと頷く。
「今度、一緒に妓楼行こうぜ。いい店知ってるからさ。兄者でも抱ける男娼も居るし……」
「男娼って、お前なぁ……」
「仮にだ。俺がその男娼で、客が兄者だったら喜んで抱かれるがなぁ……。もちろん、女をヤってる兄者も見たい」
 こう耳元で囁かれたものだから、糜竺は全身が粟立った。
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