□刻印
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「うん。大分よくなった」

完璧なモノより欠けたモノの方が、私は好きだ。
腕の無い裸体。舌の無い口。四肢が無い裸体なら尚更興奮する。

冷凍保存した身体を解体する作業をしている時だけが、私の最も堕ちて行く時間。

暗闇で月の光を浴びて蒼白く輝く裸体はまさに狂喜。興奮の渦にしばらく身を委ね、自分の身体に刻印を刻む。

自分から流れる赤い血を、新しく完成した芸術品に垂らしたら、月夜の晩の儀式が終わる。

そう言えば、あの子は今頃どうしているだろう。ちゃんと食事はとってくれただろうか。私は、片手に明かりを持ち、地下室を後にした。
鎖に繋げられた少年は、私の姿が見えないらしい。それもそうか。私が潰したのだから。

「気分はどうだい?全然食べて無いじゃないか」

全く手の付けられていない食事を見て、胸が張り裂けそうになる。

水を含み、少年に口移しで流し込む。乾いた唇を舐めてあげ、含みきれなかった水を拭いてあげる。その後に食事を口元にまで運んであげると、ゆっくりと食べていく。その様子を愛しく見ていると、少年が口を開いた。

「……もう‥、殺して」

酷くかすれた声で、必死に言葉を紡いでいく姿は、私の背徳心に火を付ける。

罪悪感にですらエクスタシーに浸れるのは末期だな。出来る事なら今すぐ楽にさせてあげたい。でも、儀式の日は次の満月の日。変更は出来ない。

少年の額にキスをして、寝かせる。せめて今だけは休んで欲しい。
きっと明日の私は君を苦しめ、虐める。死を決して許さない無慈悲で残虐な悪魔へと変わる。

満月の日だけ正気に戻りかけ、罪の意識に溺れ行く。この日は、私だけに与えられた懺悔の日。

そして少年達は、天使と悪魔の狭間で溺れ逝く。




ああ、
この手で魂を
葬る事が、
私には出来ない…


これこそが
神から与えられた
戒め




*満月の時だけ優しくなる男は、自分がした事を悔み絶望する。そして、せめてもの償いに自分の身体に刻印を刻む。

その傷の分だけ、男は狂い、最期は笑って逝くだろう。


それが彼の忌ましめ…
 

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