□彫刻家
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私は美しいモノが好きだ。形の在るもの全てが美しくなければならない。
しかし、私の求める美しいモノは、まだ手に入らない。だから私は自分で理想の世界を作ろうと考えた。


私の前に在るのは白い大きな大理石。それに理想の美を描いた。私が愛した美しき者。この世の全てがこうならなければならない。
私が何年もの歳月をかけ、ようやく作り出した愛しき人。その姿を見つめ、私は激しい破壊衝動にかられた。

後に残った白い塊を眺め、一筋の涙が頬を伝う。
そして全て解ってしまうのだった。


――――ああ、綺麗な者ほど壊してしまいたい。そう想う私は狂っている。ただ壊すだけでは無い。粉々にして完全に原型を残さない。そして美しい人を見つければ、激しい破壊衝動によって止まらない欲求。

もっと粉々に、形などなくて良い。そうすれば私以外の汚れた人間の目に晒される事は二度と無い。

この世界に美しいモノが無いのは私のせい。
私の中だけに流れる美しき者達の悲鳴。その声は五臓六腑を震撼させ、脳の中で木霊する。

それが麗しいハーモニーに聞こえる私は狂ってる?

私には引き返す道が、もう残されていない。






*綺麗な者を見ると壊したくなる彼は、本当は綺麗な者が汚れるのが恐ろしいだけ。だから、汚れる前に自分だけのモノにしてしまう。そしてそんな自分が狂っていると気付いた時。
 

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