捧
□444-葵様
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「晋助…」
「ああ?」
いつもの様に、高杉がテレビを見てゆっくりと過ごしていると、何故か真っ青な顔の沖田が、リビングの戸口の前でつっ立っていた。流石に何事かと思い、声をかけるが、沖田はうつ向いたまま、何も話そうとしない。
「……」
「どうしたんだ? お前、顔色悪いじゃねぇか…」
頭を撫でてやれば、素直にその行為を受けとめている。
「…晋助‥、驚かねぇで聞いて…」
「ん?」
「……デキちゃった‥」
「!!」
高杉の次の言葉を待っていた沖田にとって、その間は数分間にも感じた。
「…そうか」
「うん。それでね、…この子の事、産みたいの!」
高杉はしばらく考えてから、思い詰めた表情で口を開いた。
「お前…、身体は平気なのか?」
「今は平気だけど、…医者は、出産には相当なリスクがあるって言ってた」
万が一の場合、いや、かなり高い確率で、胎児と母親のどちらか、あるいはどちらも、命を落とすだろう、と。
その事を知っていた高杉は、この知らせを聞いて素直に喜べなかったのだ。
「…」
「でも、それでも産みたいんだ!」
「…総ッ、‥」
沖田は齢16の時、病により、もうそう長くは生きられないと宣告されていた。何千万人のうち一人と言う割合で発症する稀病で、現在の医療でも原因が全く解明されていない。
そんな身体で出産と言うのは、もちろん命を落とす危険があるのも承知の上での決断だった。
「…言ったはずだ、お前の命は俺の物だって…。勝手に死ぬ事も、居なくなる事も許さねぇ」
――――勝手に、俺の前から消えるつもりか?
「‥わかってるよ。…でもね、…解るんだ―――自分はもうすぐ死ぬんだって…。だけど、このお腹の中の命まで死なす訳にはいかない。…だって、もう、これ以上晋助のモノを失わせたくない!」
――――失うものは自分で最後にさせてあげたい。
「自分はどうなっても構わないってか?」
まだ18になったばかりの娘には、あまりにも残酷な現実である。しかし、気丈にも涙を全く見せないのは、その生い立ちが、影響しているのだろう。
「……お前を生かすも殺すも、俺次第だという事を忘れるな…。お前はまだまだ死なせねぇよ。最後は、病じゃなくて俺の手で殺してやるって言っただろう‥」
そっと、その今にも折れてしまいそうなほど華奢な身体を抱きしめ、低くも優しい声がそう言った。
「晋助‥」
「俺に全てをくれるんだろ?」
「…本当、あんたにはかなわないわ‥」
呆れた、と言うように、でも、その顔は嬉しそうに微笑んだ。
――――実際、嬉しかったのだ。高杉のその言葉の裏には、ちゃんと自分への想いが詰まっているから。
いつまでも、あんたの物で居させてくれ。
最後の最後まで。
「…ありがとう、晋助。大好きだよ…」
干からびたと思っていたものが、頬を伝い落ちていくのがわかり、暖かい腕の中のぬくもりを感じながら、沖田は泣いた。
数年ぶりに流した涙が、哀しみの涙ではなく、喜びの涙であった事に感謝しよう。
生まれた子供の名前は何にしようか。初めての事だらけでちゃんと対応できるだろうか…。
後で晋助と話し合おう。…でも、今はまだこのままでいたいな……。
*END*
キリ番444☆
葵様のリクエストで、書かせていただきました。どうでしょうか?(´・ω・`)私的には、かなり悩んで悩んで… 結果 甘い落ち って事で落ち着きました。高杉のセリフは私が高杉に言われたい!
って言う願望を込めて(笑)←
リクエストしていただけた、葵様、ありがとうございました。