上司も苦労します。

□第3話
2ページ/3ページ






お店を出て、白澤と鬼灯様はジュースを買いに自販機まで行ってしまった。
その際も二人が争ってたのは言うまでもない。


なので必然的に私一人がベンチで座っていた。




「…」




しかし、鬼灯様がまさかあんな事を言ってくれるなんて思いもしなかった。
普段は冷酷鬼畜な鬼灯様なワケだし。
それともあれか。
出張効果か。



そんなに好きでもないやつに、久しぶりに会うと妙に親しくなるっていうやつ。
仕事仲間が戻ってきたからきっと鬼灯様も嬉しかったんだろうなぁ…。




「そこのお嬢さん」

「…持つべき物は同僚だな」

「そこのお嬢さん」

「夕飯何にしようか」

「ちょ、君だよ君!!」




ふと顔を上げると、見慣れない人達がいた。
天国の住民かな…?




「可愛いね、俺達とお茶しない?」

「可愛い…?あぁ、この兎?私も可愛いと思う」

「じゃなくて君だよ!!」

「天然?いやぁ、それもありだね」

「…」




天国でナンパ?
良く見れば…こいつら鬼か?




「…獄卒か」

「えーなになに、君も地獄知ってる人?」

「てっきり可愛いものだから天国の住民かと思っちゃった」

「それは―――
つまり、私を亡者と?」

「角ないし…鬼には見えないから!」




そうか。
私を知ってる古株はこんなことを口走らないだろう。
大方、唐瓜や茄子と同じような新卒だな。
発言がアホだ。
……教育が生ぬるい。


鬼灯様に言って今度新卒中心に私の事を紹介させようか。
いや、それはそれで面倒だな。
まぁボチボチやっていけば親しんで来るだろう。




「生憎、私は獄卒だ。鬼の、な」




髪をかきあげて、角を見せた。
発育はあまり良くなかったのか、角は小さい。
だから鬼とは見られにくいのだ。




「毘沙門天主任補佐官及び地獄専属主治医…聞いたことないか?」

「って、まさか!?」

「私のことだ。夜鈴と言う名前くらい聞いたことあるだろ」

「げぇっ!!?」

「あなたが夜鈴様!?」

「―――あっ!!?」




一人の鬼が、私の後ろを指差した。
途端にバキッと、鈍い音が響く。



持っていた缶ジュースが潰れて中身が飛び散る。




「鬼灯様だ!!?」

「やべぇ!!」

「にげ―――」




が、鬼灯様が思いっきり振りかざした金棒は男達を遥か彼方まで打ち飛ばす。
金棒が当たった瞬間、嫌な音が響いたような。
骨が粉砕したかのような音だった。


それから、肩に金棒を担いで随分とスッキリした顔で、



「ホームラン!」

「素晴らしい鬼畜っぷりだな。恐怖を通りこして感動する」

「大丈夫?夜鈴ちゃん」

「私は問題ない」

「あなたも護身用になにか持たれては?」

「金棒重い。トゲトゲ嫌」

「…割と理由が可愛いですね」




“可愛い”


…鬼灯様に言われるのと、さっきの獄卒に言われるのじゃ大違いだ。
なんでだろうか?




「…普通にルックスの問題だな」

「今失礼なこと考えてません?」

「こんな女の子に物騒なものを持たせちゃいけないよ」

「でもな、白澤。私とて獄卒だ。そろそろ何かしらの拷問道具を…」

「では、夜鈴さん」

「ん?」

「私に良い提案があります」




大方、ロクなことでは無いんだろうな。
それだけはハッキリと分かった。






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ