20万Hit企画

□悪魔の3日間
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"ピコン"





シャットダウンのボタンを押そうとしたところで、メールのアイコンに新着メールが表示される。
閉じかけたパソコンを戻して、私はメールをクリックした。



恐らくアシスタント依頼だと思い、メールボックスを素早く開く。




「これは…!」




私は依頼主を見て、目を見開いた。




「誰からだ?」




デスクに手をついて、人のパソコンを勝手に覗きこみしやがる髭燃焼系ムキムキオヤジことエンデヴァーさんはメールを見るなり顔を顰める。

私は最近エンデヴァーさんと長期契約をしており、特別に事務所の隅っこにデスクとパソコンを置かせてもらっていた。
パソコンはもともと自前で持っていたもので、エンデヴァーさんからの仕事が無い限り、こうしてパソコンからのメールのやり取りで他のヒーローのアシスタントへ赴いている。




「"抹消ヒーロー"イレイザーヘッドからです…」

「来週だと?ふざけるな!来週は俺の仕事に付き合ってもらうぞ!!」

「いやそれ今初耳ですし。順番ってものがありますので。
コンマ数秒、このイレイザーヘッドさんって方の方が早かったんで」

「貴様なんのために長期契約したと思って―――」

「あっ、間違って了承メール送っちゃいました!ごめんなさい!」

「なっ!!?」

「それじゃあちょっとお手洗いに行くので失礼します!!」





エンデヴァーさんの雷が落ちる前に、速やかに事務所から撤収する。
パソコンと携帯のメールは同機させてあるので、事務所からでなくとも問題ない。



事務所を出て、街中を歩きながら依頼文を確認する。



内容としては、毎晩高級宝石店に侵入しては宝石を奪う泥棒の捕獲。
ただ敵の個性が厄介らしく、暗闇にその姿を同化させる個性だそうだ。
現場から残された痕跡から、以前にも犯罪を犯している常習犯というところまで突き詰めたらしい。
しかし、個性の力は分かっていてもその対策が難しいようだった。
体を闇に同化させるので、実質それは透明人間に近いものがあるようだ。
しかも触れたものまで同じように暗闇に同化させるという非常に厄介な敵。


今までの犯行からして、次の犯行日が来週だという。
理由としてはとても明確で、来週に某大手宝石店で、値段にして数億円相当のネックレスの展示会を行う。
それは勿論ニュースでも取り上げられていることで、街中の誰もが知っていること。
だから恐らく次の犯行はネックレスの強奪―――




「厄介なヴィランがいたものです…」




スマホの依頼文を眺めながら、小さく溜息。




すると。




「っ!」

「!」




ドンッ、と歩きスマホをしていたがために、誰かの背中に直撃してしまった。
慌てて謝ろうと、顔を上げると。




「す、すみません…」

「歩きスマホねぇ…危ないよ。それに合理的じゃあない。
歩く速度も遅くなる。視界が阻まれる上に危険性が増す。交通事故になっても文句は言えねぇな」

「え」



思わず、口端が引きつった。
確かに私が悪い。
それは分かる。
分かる、が。


何だこの人…!!
いきなり会って数秒でそこまで言うか!!?




「すみませんでした。急用だったもので、つい」





ぶつかった人は男性だった。
全身真っ黒なツナギのような服を着て、首元には…なんだあれ。マフラー?を何重にも重ねていた。
見た処くたびれたキノコにしか見えないんだけど…。
しかもちょっと胡散臭そう。




「つい、で済まなかったらどうするつもりだったんだ?」




なんで絡んでくるんだこの人は…!!
思わずムッとしてい活かそうとした時だった。




「!!」




男性の直後を大型トラックが走り抜けていったのだ。


もしも、男性がいなかったら。








私が轢かれていた?



私がそのまま進んでいたら、横断歩道があったようで。
しかも信号は赤色。




…この人が怒るのも無理はない。




その事実に、思わず唇を強く噛んでしまう。
私は本当に申し訳なかったと思い、腰を深く折って謝罪した。




「ありがとうございました」




最後にそれを付け加えると、男性は何も言わずに青色に変わった信号を渡っていた。
すぐに人ごみに紛れてしまったために、その後姿を追うことは出来なかったが。




「…同業者の匂いがする」




服からは、硝煙と鉄の匂いがした。
もしくはその逆。


ヴィランという可能性だってある。



どちらにせよ、私はこれ以上彼を追うわけにもいかず。
ヴィランだろうが今は自分の失態を深く反省するだけだった。







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