20万Hit企画
□聖少女の休息
3ページ/4ページ
「…は?」
「予想通りの反応と言えるだろうな!ははは!愉快愉快!」
「…頭のネジぶっ飛んでるみたいだな」
「そう!その通りさ!先日の戦いでネジがどこかに落ちてしまったらしい!」
病室だと言う事も顧みず、いつものようにけたけたと声を上げて笑った。
相澤はそんなことか、と言ってため息をついた。
「それで?俺はどうすりゃあいいんだよ…」
「イエスもノーも必要はない!これは"一時的な精神の異常(エラー)"だからだ!」
「エラー?」
「恋、恋愛、愛、好き…そんなものは脳が錯覚を起こしているだけだ。
もしくは人類繁栄のために埋め込まれたプログラムの、意図的ウィルスとも言えようか!」
「恋愛感情をそんなふうに例える奴は初めてだ…なんだお前…逆にすごいだろそれ…」
「年相応に体が反応してしまったんだろうな。先日貴様に"AV顔負けの濃厚べろちゅー"したせいでな」
「…」
「脳が普段しないようなことをしたことによって疑似錯覚を起こしてしまっている。
胸の動悸、体温の上昇、思考回廊の低迷…どれも日常生活に支障をきたすレベルでな」
「…本当に変な奴だな、柳崎先生は」
「解決策として、手っ取り早く相澤君が私をトラウマレベルの女子から非難食らうような最低な振り方をしてもらえれば助かるのだが…
それは最も精神的ダメージが大きいようでな。
そうすると最悪なことに更に日常に支障をきたす結果となってしまう」
「…それだけで人を好きになるか、普通」
「いいや!私は相澤君を好きになっていない!これは精神の異常と言っただろう?
そういう風に脳が一時的に錯覚をしてしまっているんだよ。
たとえそれがどういうきっかけであれ、簡単に人は恋に落ちる」
「じゃあなんだ、俺はお前が好きとでもいえば解決するのか?」
「馬鹿言え気色悪い」
「お前退院したら覚えておけよ」
私はきっぱり言い張ると、籠にあった林檎に手を伸ばした。
まだ完全に赤みを帯びていない林檎を掌で弄ぶ。
「残念なことに自然消滅を待つしかなくてな…ただ問題があるとすれば」
「問題?」
「私は意外と行動派でな」
「意外じゃねぇよ超行動派だろうが」
「うるさい。
…で、だ。思った事よりもすぐ行動に移してしまう。
それは感情が高ぶっていればいるほどに」
「…」
「分かるな?」
にやり、と口端を釣り上げた。
三日月みたいなそれを相澤に向ければ、あからさまに嫌そうな表情をする。
「つまりは今まで以上に貴様に積極的になってしまうことだ。
…ああ、考えるだけで鳥肌が止まらないよ!
最悪なことにべろちゅーどころの話じゃならないかもしれんな」
「なんとかならないのかそれは…」
「私だって望むなら何事もなく終わらせたいさ」
「…口ではそういうくせに、顔が楽しそうだな」
「勿論。私に対してのデメリットは多少あれど、それくらいの代償で相澤君をいじめられると思うと楽しくて、ね?」
「校長に相談して退職願だしてもらうか…」
「ははは!やれるものならやってみろ!!」
かぶり。
甘酸っぱい林檎を一口、齧った。
勿論まだ熟してはいないからおいしいとは言えない。
しゃく、しゃく、と軽く咀嚼しながらパイプ椅子を下りた。
そのままベッドに腰かけて、相澤の上から覆いかぶさった。
「どれ、せっかくだから私が介抱してやろう」
口元の包帯をずらして、私は二度目となるキスを平然としてみせた。
その行動に相澤は一瞬体を硬直させたが、如何せん怪我人だ。
私を制止できぬまま、成すがままにされていた。
口移しで林檎を相澤の口内へとねじ込む。
一瞬苦しそうにうめき声を上げたが、うむ。わざとだ。
ちゅっ、と最後に可愛らしくリップ音を立てて離れれば、珍しくも、相澤が困ったような顔で、顔を赤く染めていた。
「…そそるねぇ」
「っ、お前…!!」
「実にこれからの学校生活がたのしくなりそうだよ、相澤センセイ」
にこり、とまともな笑顔を零してみせた。
表面上はそうは言ったものの、身体は思った以上に正直だ。
胸の動悸が先ほどより格段に上がっているし、唇が熱い。
これは、かなり厄介なエラーかもしれないな…。
しかし、実に相澤君のいじめがいがありそうだ!
もう一口やるか?と言えば、相澤は鋭い眼光で睨んできた。
…ツレないねぇ。
いつものように肩をすくめて、あとは他愛も無い雑談をすることにしよう。
.