20万Hit企画
□聖少女の休息
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数日後。
花束を片手に、私は相澤が入院している病院へ足を向けていた。
面倒な事極まりないのだが、仕方ない。
溜息をつきながらナースステーションで部屋の番号を尋ねる。
看護師はちっちゃいのにえらいねぇ、なんていうものだから一言物申してやりたかった。
だが実際にはいちいちそんな事には構っていられない。
お礼を告げてから、私は部屋へ向かう。
相澤が集中治療室から普通の部屋へ移動したのが昨日の事。
私の傷はとっくに完治しており、今ではとっても元気だ。
相澤がいない間私がA組を受け持つことになったのだが、あの事件以来生徒の様子がおかしい。
今までは私の事を見るたびにビクビクしていたのが一転、ニヤニヤと笑うようになったではないか。
コミュニケーションが取れるようになったのはいいことだ。
だが、いつまでもあのネタを引きずってくるのは止めてもらいたい。
切島が「イルカってそんなにすげーのか?」って聞いてきたから、真顔でべろちゅーしてやろうか、と言えば全力で否定された。するわけもないがな。
用はあれだ。一応私のまともな一面を見ることが出来たので、生徒も徐々に心を許しているのではないかと。
見てて飽きないがな。
相澤の病室までたどり着いて、部屋をノックする。
いっちょ前に個室だ。金持ちか?
「やぁ、元気かい?」
ニヤニヤと笑いながら、部屋に入れば目の前には全身ぐるぐる包帯男が座っていた。
「実に滑稽だ。ミイラ男かね?いい機会だからついでに写真をとっておこうかい?」
「断る」
ペラペラと口は動かしつつも、持ってきた花を花瓶に入れる。
他にも果物なんかは持ってきたがすぐに食べられるとは思えなかったので、まだ青いものを。
林檎はそれでもすぐに食べようと思えば食べれるくらいのものを。
私だって外道だとか鬼畜だとか言われても人の子よ。
気遣いくらいできるさ!
素早く済ませて、何事もなかったかのようにパイプ椅子に腰かけた。
「可愛い生徒も心配していたぞ?緑谷たちを救けるために必死に戦ったらしいじゃないか。
まさにヒーローの鏡だ。尊敬に値するよ」
「…」
「どうした?だんまりだなんて相澤先生らしくも―――」
「俺を救けてくれたんだろ」
「…は?」
「マイクに聞いたが……なんだ、その、キスしたらしいな」
「…」
「それもAVも驚きの濃厚キス…だったとか」
「………」
「でも勘違いはしてねぇよ。お前の個性を使って―――」
「〜〜〜〜〜ッッ!!!」
まさか。
いやあの大衆の中でやらかしたんだ。
誰かは本人に伝えるだろうとは思っていたけれど。
そんな表現をされるとさすがに私だって羞恥心が湧き上がってくる。
きっと今私の顔は真っ赤だろう。今更冷静さを取り繕ったって無駄な気がする。
それでも尚、いつものように振舞おうとした。
「ひざし処す」
「殺意がやべぇな」
「…ハァ」
深いため息。
ようやく心を落ち着かせて、私は足を組んだ。
椅子に座ると足が床につかないのがなんだか落ち着かないが、それはそれとして。
「相澤君、君に大事なことをいわなきゃならない」
「大事な…?」
「真剣に聞け。いいか、私は―――」
相澤も私の真剣な表情を見て、目を細めた。
あのヴィランとの戦いの後だ。
緊張してもおかしくはない。
だから私はたっぷりと間合いを取ってから、口を動かした。
「相澤君に恋をしてしまったようだ」
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