20万Hit企画

□聖少女の休息
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「―――い…」










誰かに、呼ばれている気がした。








「柳崎先生!!」






いや、呼ばれているのか。
ぱちりと目を覚ませば麗日の顔が見えた。
それから麗日は安堵したのか、涙をぽろぽろ零す。
なぜ泣いている?





「…ああ、なるほど。意識を飛ばしてたのか」




体の異常なまでの倦怠感と痛みが目を覚ました途端襲い掛かってきた。
あの一撃がそうとう堪えたのだろう。
誰かがここまえ運んでくれたようだ。




周囲を見渡せばUJSの入り口に私は横たわっている。
外からは聞きなれたサイレンの音。
頭上からは大人たちの声が降ってくる。
おかしい。私はオールマイトが来るまではしっかり意識があったはずなのに。




「先生、動かないでください!血を流しすぎたみたいです…!」

「血?」

「先生だって先生だけどまだ体はちっちゃいんですから無理しないでください!」




なるほど。
やっぱり体の方がもたなかったわけか。
この先こんな状態ではあまりにも不安だな。
敵の攻撃をモロ食らっただけで意識を飛ばしてしまうとは…。
いや普通の人間ならばそうなのかもしれんが、昔の私は勿論体だって鍛えて―――




「いや…今は子供だったな…」

「先生?」





私は転生して"普通"の人間であるのだ。
無茶は出来まいと証明できた。





「オールマイトとヴィランは?」

「オールマイトがヴィランをすぐにやっつけちゃいました!!
飯田君が先生たちを呼んできてくれたお蔭でヴィランもいなくなりましたよ!」

「チッ」

「柳崎先生!?」

「…なんでもない」

「ちょ、ちょっと起きないでください!!リカバリーガールが来ますから!!」

「相澤は?」

「え?」

「相澤はどこにいったって聞いてんだよ」

「ひっ!!い、今救急車にタンカーで運ばれるとこで…って、先生!?」





私は悲鳴を上げる体を無視して、入口に向かった。
救急隊員が相澤を救急車に乗せようとしている所だったが、私は構わずタンカーの上に飛び乗った。




「ちょっと、君!!?今すぐ降りなさい!!」

「この人は今すぐ病院に行かないと危ない状態で―――」





そんなのは見れは一目瞭然だ。
本当は避けたかったが、致し方あるまい。
素敵な人命救助だと思えばいい。
相澤が怪我を負った責任は私にもあるのだから。
勿論"生徒の生命"を何よりも一番に優先したわけだから、それらに含まれていない"教師"は全て見捨てた。


それには自分自身も含まれる。



だから無駄に怪我をしてしまったけどな。


相澤や13号は救けようとすれば救けられた。
だがそれをしなかったのは13号や相澤を救ければ生徒が命の危機にさらされる可能性が高かったからだ。
ヴィランとの戦闘とはそういうもの。
極端に取捨択一をしなければ、迷いが命取りになる。

だからその謝罪の意をこめて、だ。




救急隊員の制止をガン無視して―――






相澤の唇に噛みついた。






「ええええええええ!!!!?」

「ちょ、ちょっと柳崎先生!!!?」

「あ、相澤先生ーーー!!!?」





唾液をたっぷりと含ませ、舌を使って強引に相澤の口にねじ込む。
ディープキスも見事なキス技をこの人前で披露してやれば、周囲からの悲鳴が恐ろしい。




「ぷはっ」




およそ20秒くらいだろうか。
長い間ねっとりとしたキスをかましてから、私は相澤から離れた。




「き、君なにして…」

「危篤状態は脱しただろうよ。病院に運ばなければならないことには変わりないが―――
外部から自己再生能力の元であるそれを送り込んだ。…何とは言わせるなよ?
強いて言うならイルカの力を借りて、だがな。…何だその顔。知らんのか?
イルカには自己再生能力が備わっており―――ってそんなものはいいからさっさと運べ」

「は、はいっ!!」





顔を真っ赤にしたいのはこっちだというのに、隊員は顔を赤くしながら相澤を救急車に乗せ、学校を後にした。




「柳崎先生って…」

「いつも授業中すっげぇ怖い先生だと思ってたし…」

「相澤先生にも当たりが悪いのは嫌ってたからだと思っていましたが…」

「嫌よ嫌よも好きのうちっつーアレか…?」

「わ、私柳崎先生応援する!」

「ですが、まだ年齢的に相澤先生が犯罪者になってしまいますわ」

「そこは愛の力よ、ケロッ」






好き勝手解釈するものだから、いい加減に限度を超えた。






「全員纏めて相手をしてやろう」

「「「ごめんなさい」」」





全く…。
妙な誤解を招くような行動をとった私も悪いけども!!

ぐるりと傷だらけの生徒たちを見渡した。
それぞれの表情が数日前とは違う。




…。





ふむ、悪くない。






「何にせよ、これがヴィランとの戦いだ。
我々雄英側が痛手を負ったにせよ、本物の戦いは教科書で、授業で知識を埋めるだけでは全く無意味だ。
だからこそ、だ!今日の経験を糧とし、今後に生かせ!!」

「「「はいっ!」」」

「―――強くなるぞ、お前たちは」

「「「ッ…!!!」」」

「柳崎先生が…褒めた…!」

「いつも怒鳴るかゲス顔浮かべるくらいしかできない先生が…」

「ちゃんと笑ってる…!!!!」

「貴様ら私を馬鹿にするのもいい加減に―――」




ぐらり。




眩暈が襲う。
どちらが地面でどちらが空だなんて判断できないほどに。
自分の分の再生能力を相澤に渡したせいか…気持ち悪い…。



「先生、大丈夫!?」

「麗日…」




倒れかけた私を、麗日が抱えた。




「先生だって重傷なのに…無茶しないでくださいっ!」

「…麗日を私専用のセグウェイに認定する…リカバリーガールモトム」

「ど、どういうことですかっ!?」

「簡単に言えば、マジでやばい。死ぬ」

「ちょ、ちょっと待っててくださいっ!!」




麗日をまともに直視が出来ない。
地球が回ってるように見える。
ここが限界か。


あとは麗日に任せて、意識を再び飛ばした方がよさそうだ。





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