20万Hit企画
□聖少女の脈動
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聖少女の脈動
「由紀ちゃん、今日はよろしくお願いしますね」
そういって、身長が180pある13号は膝を追って身長の低い私に合わせて挨拶をしてくれた。
その際にも頭を軽く撫でられて、キャンディまでもらってしまった。
見事に子ども扱い―――いや、その通りの対応の仕方だ。
13号に何も悪気はないのだ。
普段の私なら、というか相澤に同じことされたら暴言ぶちかましてやるところだが―――
「はいっ!13号、よろしくお願いしますねっ」
キラキラと背景に可憐な花でも咲いていそうな(余所行き用の)笑顔を撒き散らす。
それを見ていた相澤はドン引いていたが構わない。
「えっとぉ、今日わぁUSJで彼らの人命救助についての授業なんですよねぇ」
「頼むからいつものゲス顔でいてくれ気味が悪い」
堪忍ならないと言った様子で、相澤は言い切った。
「酷いなー私ゲス顔なんてしたことないゾ☆ぷんぷん!」
「…」
「ははは、可愛いですね、由紀ちゃんは」
「ありがとうございます!」
「どこの悪女だお前は」
「先生こそ怖いですよぉ」
「先輩、こんなにちっちゃくて可愛いのに由紀ちゃんがゲス顔なんてするわけないじゃないですか」
「少女の皮を被った悪魔だこいつは」
「そんなまさか」
ははは、と笑って相澤の言葉を13号は真に受けはしなかった。
13号が子供好きというのは知らなかったが、媚び売っておいて損はないだろう。
表面はキラキラ年相応の笑顔を振りまいているが、内面腐った元犯罪者がこうして悪態ついている様は本当に面白い。
我ながらなかなか愉快だと思うよ、本当に。
「さて、皆さん揃いましたし…始める前にお小言を1つ…2つ…3つ…」
13号の話が始まったので、私は綺麗な笑顔を張り付けたまま、USJ内を見下ろした。
幾多の災害救助を想定したこの場所は生徒を鍛えるためにはもってこいの場所。
水難土砂災害その他エトセトラ…素晴らしい設計だ。
さて、今日私はあくまでお手伝いさんとしてここにいる。
相澤の付属品なので相澤がいくところはどこにでもついていかなきゃいけない。
一応私だって新任教師ではあるので"教育係"という書面上の役割はあるようだ。
着任時には根津からも「必要はないかもしれないけど、君の先輩だから勉強しておいで!」と言われてしまっている以上、仕方ない。
その際にどうしても教えたい授業として許可をもらったのが「ヴィラン心理学」もとい「ヴィラン基礎学」
相澤をはじめとした数人の教師にこそ否定はされたが、上手い事丸め込んでやったし、実際に今のヒーローにそういう知識はあって損はない。
ヒーローを育成する雄英でヴィランを育てる気か、と怒られもしたが…
敵の行動パターンはその場にならないと実際は分からないが、これから対峙する敵がどういうものか頭に叩き込んでおいてもいいだろう。
本当の敵というものを学校にいるうちは理解できないのだから、甘ちゃんな新人ヒーローは大体初めの仕事で挫折する。
戦場ってのは命と命を懸けた殺し合い。
ヴィランだって命が惜しいし、捕まりたくもないに決まってる。
生徒には卒業してから初っ端から躓いてほしくないしね。
さて、脳内雑談もそこそこにして―――
「おや」
手すりにつかまって、USJの中央に目を凝らす。
すると中央で何やら黒い靄のようなものが見え、不思議なことにそこから何人もの、まさにヴィランのような連中が出てくるではないか。
これも仕掛けか?
「いいや、あれは違う―――」
手すりから即座に離れ、相澤の服を引っ張った。
「相澤先生、緊急事態」
「!」
「え!!?」
「ヴィラン!?」
私の言葉に生徒たちが機敏に反応した。
相澤も即座に階段を数段下りて、下の様子を伺った。
「一塊になって動くな!!13号、生徒を守れ!!!!」
本物のヴィラン?
どうして学校に?
まぁどちらにせよ―――
「普通の授業じゃ、物足りないところでしたしっ」
ニコッ、と綺麗な笑顔で首を可愛らしく傾げてみた。
ちらりと後ろを向いた相澤はこの間の昼食時よりも一掃殺気立った様子で、
「まさか柳崎…!!」
「そんなわけないじゃないですかぁー私ただの少女ですよっ?」
このヴィラン襲撃が私のせいじゃないかと疑ってきた。
実際あのヴィランのことは知らないし、今の地位を危ぶませるようなことをしない。
私には私なりの目的があってこの雄英にいるのだから。
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