20万Hit企画
□聖少女の邂逅
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聖少女の邂逅
―――事前に言っておくけれど。
つらつらと悪言垂れ流して置きながら、ニコニコと笑顔で教卓の前でヒーロー基礎学を熱弁しているのには訳がある。
あらかじめ言っておくが、私は『元』ヴィランである。
どういうことかって?
まぁ順を追って説明する。
日本中のヴィランの情報をこの小さな脳味噌に叩き込み、数多くの修羅場を潜り抜けてきた。
ヴィランの中では有名な悪玉といったところか。
同じ仕事仲間でも私を嫌悪する。忌み嫌い、私を恐れる。
私は私利私欲の為ならなんでもやった。
多種多様な犯罪は小さいものから大きいものまで経験済み。
勿論誉れ高き指名手配犯だ。
教室の後ろで黙って私の教鞭を見守っている相澤消太だって私の敵である。
というか、ここの学校全員が私の敵であるヒーロー、もしくはヒーローの卵だ。
この学校にいる先生は悪名高い私の名前を知っているはずだ。
しかしこうして教鞭をとるのはおかしい話ではないか?
―――無論、その通り。
何故なら私はこれで2回目の転生だからだ。
転生?そんな個性?いいや、違う。
冒頭にも告げたが私の個性は"ビースト"
どんな獣にもなって見せる。
ライオンだろうが、白鳥だろうが、極端に言えばハムスターだって姿を変えられる。
勿論、猫にだって。
さて、猫には9つの魂があるという噂を聞いたことは無いかい?
猫は長生きしたものほど、尾が二つに分かれる。
そんな迷信染みた話を知ってか知らずか―――一度目は猫の姿でのたれ死んだ。無様にも程がある。
確かその時は齢40後半だった気がする。
丁度死ぬ1年前にようやく捕まったが、その優秀すぎる犯罪能力を国家警察に買われて―――私は晴れて犯罪者でありながら自由の身、となったところだ。
うん?おかしな話?
聞いたことは無いかい?
毒は毒を持って制す。
つまりはヴィランはヴィランが倒した方が優秀だと警察も気づいたんだろうよ。
だからこそ、一度目よりはそれなりに楽しい平和な人生だったよ。
―――ヒーローに殺されるまではね。
ヴィランがヒーロー社会にのほほんと普通に生きているのが相当癪だったらしい。
犯人は全く見覚えは無いけれど、この借りは必ず返さなければならない。
そして2度目。
2回目となれば「おぎゃあ」と泣くのも手慣れたもんで。
目が覚めた時は赤ん坊で―――個性もそのまま、記憶まで引き継げるとは思わなんだ。
さすがに人生1回経験していれば、ノコノコと同じ経路を歩むわけにはいかない。
幸いな事にも、死んですぐに転生するらしいから私としては非常にありがたい。
だから私は恥を捨てて2人目となる親に綺麗な土下座をかまし、日本に数少ないとされる飛び級制度の英才教育学校を選択。
齢10にして教育資格とヒーロー資格等を受託。
このあまりにも早すぎるスピード昇格には世間は騒がずにはいられなかったが、日常で起きるヴィランとの戦いの中で、気が付けば週刊誌に載る事すら無くなった。
そして現在。
優秀なヒーロー育成社会におけるもっとも重要機関。
私が目を付けたのは即ち"高校"
日本人は大方が高校を卒業後、就職するものだ。その進み方は個人差はあれど、間違いなくヒーローの卵が生み出される場所は、高校。
そして部外からもヒーローの援助を貰いやすく、手っ取り早く私を殺した対象を見つけるには一番効率的な方法だと踏んだのだ。
そんな経緯があって、私は少女の姿でヒーロー活動をし、そして同時に生徒を教える教師となった。
「―――以上で終了。何かわからないことは?」
ちなみにこのヒーロー科で、この生徒たちの前で教師をするのは、今日が初めて。
なぜなら彼らはこの春、入学したばかりの生徒だからだ。
それもあってか、なお一層唖然としているように見えた。いや、唖然としているのか。
「一ついいか、柳崎先生」
「どうぞ。相澤先生」
「ヒーロー基礎学だってのに、誰もヴィランの心得なんざ求めちゃいねぇよ」
ああ、それでか。
生徒全員がポカーンとして口をあけているのは。
思わず面白くなって笑いを零した。
「それは失敬。だが、ヴィランの心理を知るのもまたヒーローの大事な役割だ。
だから主に…そうだね、私の授業はヴィランの心理に、行動に迫る授業について勉強しようじゃないか、諸君」
「…」
「有意義な授業になることを期待しておいてくれ」
それでは授業終了。
そう言って持参した参考用のノートを閉じる。そして同時に授業終了のチャイムが鳴り響いた。
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