ダイビング!

□vol.23
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窓から漏れる朝日に目が眩んで。






重い瞼を開けて、身体の違和感に気づく。





「……っ」





体を起こしてみようと力を入れれば、ギシリと軋んだ。
一瞬刺すような痛みが全身に走ったが、ほんの一瞬だったためようやく体を起き上がらせた。
硬い床で寝ていたから、そういった類ではないだろう。

ぐっ、ぱっ、ぐっ、ぱっ





「……」





手を閉じたり、開いたり。
その動作は当たり前のように自然な流れだったが、どうにも手を閉じる瞬間に何かが邪魔をしてスムーズに閉じることが出来ない。


軋んでる。




「…」





体が、軋んでいる。


それは壊れかけのロボットと同じで。
ネジが緩み、接続部分が錆び、劣化している。
それと似たようなことが私の内部でも起きている。
そう、断言できる。



「…上手く、動けない」




他人事のように言ってみる。
言ってみたけど、やっぱりそれはただの虚勢だった。


実際問題、結構重大なことだし、私の身体になんでこんな不調が、問題が起きているのかわからない。


度重なる全力での個性使用が今になって響いたか。
或いは無茶な戦闘をこなしてきたせいか。
この体の不調は思い当たるところが多すぎる。

どちらにせよ、時間が無い事だけは確かなのだ。
だからあと少し、あと少しだけ。
体がもてばそれでいい。




「のど、乾いたな」




足に力を入れて、私はようやく立ち上がった。



















vol.231 long day,long time
































「あと、十分…」





黒霧から貰った時計を確認して、私は深く深呼吸した。
この街の港にある、大量のコンテナ。
以前は大型貨物船がこの港に寄って荷物の積み下ろしを頻繁に行っていたそうだが、今は別の場所に停留先を変えて、この場所は使われていない。
人の行き来もなく、釣り人さえもあまりこの場所は訪れない。
大きなコンテナは周囲の視界を遮るし、死角にもなり得る場所が多すぎる。
万が一事故が起きても人に見つかりにくいのだ。


つまり、誰かを呼び出して、何か悪いことをたくらむには最適ってわけだ。




「…」




この場所こそが、竜殺しが指定した場所。
現在ここには私のみしかいない。
少し離れた位置に死柄木と黒霧がこちらを監視しているが、それは万が一にも死柄木達が捕まりそうになった際にすぐさま逃走出来る様距離を置いていることと。
竜殺しに見つからないようにするため。

作戦としてはこうだ。
竜殺しが私に近づいてきた時点で、すぐさま黒霧と荼毘、トガちゃんが移動して私諸共強引に黒霧のゲートにぶち込むらしい。
他のヴィランも連れてくる予定だったが、死柄木達だって痛手を負っている状態だ。
あまり人員を割きたくないと言う事でこの少数人数で挑むこととなった。



最悪私が捕まっても、死柄木達に問題は無い。
デメリットは生じないのだ。
勿論「私」という戦力は無くなるわけだけども、彼らが本気でそれを当てにしているわけがないのだ。



だから、私は彼らにとっての"捨て駒"だ。




「そろそろ、時間かな…」



時計を確認すれば、時刻はきっちり朝の6時を示していた。
朝日の眩しさに目が眩みかける。潮風がとても気持ち良かった。
これが普通の日常だったらよかったのに。




ヴヴヴ…




ポケットに入れていた携帯が振動する。
画面に映し出されるのは、心操君からのメッセージ。
ただ一言『元気か?』
私は不愛想な心操君の表情を思い浮かべながら、口元を綻ばせた。
それから万が一に備えて、携帯のあるアプリを起動した。



「…保険、かな」



どこまで成功するか分からないし、最悪の事態になってしまったときの保険。
私は起動したのを確認すると、再びポケットに仕舞い込んだ。




コツ、コツ、コツ。




不意に聞こえた足音は、ピタリと止まった。




「君は…どうしてここに?」





ピシリと整った制服に身を包み、まるでさも巡回中だと言わんばかりの装いを、ごく自然に振舞っている雪村さんが、そこにいた。
私はこんな状況でなかったら雪村さんをきっと信用したままだったんだろう。
私はきゅっと結んでいた唇を緩めた。




「―――初めまして、ですね」




雪村さんの正体を知り得ながら対峙するのは。





「柳崎さん、先生方が血相を抱えて探していましたよ!なんで家出なんか…!!」





私は、深く深呼吸をしてから一気に眉間に皺を寄せた。




「噓つきは泥棒の始まりですよ、お巡りさん」







この一言を境に。


―――私の、長い長い一日が幕を開けた。




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