ダイビング!

□vol.22
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一歩ずつ足を踏みしめていくたびに、後悔の念が押し寄せてくる。
本当にこれでよかったのか、と。
今更戻る事なんて出来ない。
後ろにはとっくに退くことは出来ないのだ。
ならば、それならば。


前に進むしか、道は無い。














vol.22 悪と善












「わーーーっ!!由紀ちゃんだーーー!!お久しぶりだね!」

「うわっ!?」




周囲を見渡していれば、トガちゃんがいきなりくっついてきた。というよりタックルをぶちかましてきた。
"トガちゃん"。ねぇ…親しみを持つ意味で呼んでいるわけではないけど、郷に入ったら郷に従え。
下手にご機嫌を損ねるよりマシだろう。

荼毘に連れられてきた場所は、とある廃ビルの一室。
廃ビルの割には環境が整っており、恐らく死柄木達が勝手に配線なんかを通したのだろう。
全員の自己紹介なんて今更必要ない。
なんせ、つい最近あったばかりなのだから。




「元気にしてたか?柳崎由紀」

「…」




死柄木は机に頬杖をついて、不服そうに言って見せた。



いつの間にかぎゅっと握った掌には、じわりと汗が滲んでいた。
死柄木を見ると、思い出す、オールマイトたちの戦い。


ずくり、と足が疼く。

今も尚…鮮明に脳裏に焼き付いていた。





―――五分五分の戦いだった。




こちらは複数のヒーロー達の戦力を失い、その中でも圧倒的にオールマイトが力の限界を示していたのはかなり手痛い。
それに対し、こちらの大ボスである男を逮捕し、アジトを破壊した。
痛み分けといったところ。お互い痛手を負っているなら無暗な戦闘は避けたい。
正直死柄木をぶん殴りたいところなのだけど、自分の今の現状を弁えなくては。


だから私は何もしないし、それを分かっていて死柄木も私を拘束したりしないのだろう。





「ねぇ、由紀ちゃん!!血ィ見せて!!血!!!私ね、この間由紀ちゃんの血ィ取れなくてすっごくウズウズしてたの!!」

「やだよどいて」





べりっとトガちゃんを引き離して、私は死柄木と対峙する。
それでも尚空気を読まないトガちゃんは私の腰にへばりつく。
…おもちかお前は。




「そっちこそ大分キてるみたいだけど、ご飯くらい食べたほうがいいよ」



威勢のいい言葉を投げるが、こんなのはただの強がりだ。



「お前こそ、その杖はなんだよ?ダッセェなぁ」

「…」




分かり切った虚勢なんていうのも死柄木は分かっていて、敢えて煽ってきている。
頭に青筋浮かべながら、あくまでも冷静に話題を引きずりだす。





「で、私を呼んだ理由…餌としてどう使うの?」

「…」

「竜殺しを釣り上げる餌でしょ、私。どうせそのまま私を売って、あわよくば私ごと竜殺しを殺すつもりなんじゃないの?」

「半分正解ってとこだな」

「半分?」

「俺達にとって竜殺しの存在は邪魔だ。だが、お前の力は俺達に必要だ」

「…」

「次世代のオールマイトと言っても過言じゃねぇな。
その力さえまともにコントロールできりゃ、最強じゃねーか。せっかくの力を無駄にするのは勿体ねぇだろ」

「私に断る権限はあるの?」

「ないね」

「でしょうね……」




頭を抱えたくなるような提案に、一先ずそれを置いておくことにした。
最優先すべきことは、竜殺しの正体を暴くことだ。
警察側に一枚噛んでいるだなんて最悪すぎるからね…。




「で、私の仲間になる云々は置いといて…死柄木達は竜殺しを殺せばそれでいいの?」

「いいや、第一に先生の奪還だ」

「…奪、還」




"先生"
オールマイトと戦った男。
オールマイトはあの男のことを、オール・フォ・ワンと呼んでいた。
警察にその身を拘束されているが、先日の戦いは竜殺しにとっては思いがけない幸運といったところか。
死柄木達を揺さぶるための材料として、オール・フォーワンを捕らえている。




「竜殺しから先日お手紙が届きましてね」




と、黒霧は私に一枚の紙を手渡す。
それを開いてみれば、内容はこうだった。



"君たちの大事な先生を返してほしいなら、条件を呑むこと。
柳崎由紀を連れてくること。
以上を約束すれば、傷一つなく返してあげよう"





手紙に一通り目を通したあと、それを黒霧に返した。




死柄木の横にあった机を蹴飛ばす。
一瞬周囲が殺気立つが、私は構わず続けた。





「こんな紙切れ無意味。竜殺しをぶっ飛ばせばいいでしょーが。んで、先生奪還。これであなた達は大勝利」




その言葉を聞いて、死柄木は目を見開いて驚いたが、その後に不気味な笑みを零した。





「意外とお前って話が分かるやつだな」

「そりゃドーモ。お兄さん」






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