ダイビング!

□vol.20
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とにかく問題は山積みだ。
あのまま私は雄英にいるわけにもいかないし、何よりもうすぐで授業は再開する。
それも全寮制という形となって。

私がいるせいで他の誰かが巻き込まれただなんて笑えなさすぎる。




「だから一人で私は行くんだ」

「俺は、本当は嫌なんだけどな」

「でも協力してくれたじゃん」

「…そりゃ…」

「心操君。今までありがとう。すぐに戻るから」

「…」

「心操君?」




むすっとした表情かと思いきや、折れない私を見て小さく溜息をついた。
コロコロ表情が変わる心操君も見てて面白い。



「ほら、シュシュ落としたぞ」

「え?」



心操君がポケットから取り出したのは、荼毘に連れ去られたときに落としたシュシュ。
きっと薄汚れていただろうに、今は綺麗になっていた。
それを手渡して、心操君は私を強く抱きしめた。
それに驚いたけど私は何も言わなかった。

私がしていることは本当に無意味なことかもしれないし、何より心操君をここまで巻き込んでいる。
酷い女だと言われもしょうがない。




「俺もついていく」

「それはダメ」

「…言うと思ったわ」

「すぐ戻るから」

「なぁ、由紀。俺お前がいなくなったって聞いたときすっげぇ心配したんだぜ」

「…うん、ごめんね」




私は心操君の身体に手を回すことなく、その声と温もりを感じていた。




「心臓がはちきれるかと思った」

「…」

「走れなくなったって聞いて、俺も驚いた」

「…ごめんね、でも、もう、大丈夫」




覚悟を、決めたから。
もう大丈夫。



考えて、落ち込んで、開き直って、また落ち込んで。


先生に八つ当たりして、落ち込んで、落ちて、落ちるとこまで落ちていって。


いっその事敵にでもなってしまおうかと。
最悪な結論を見出してしまったけれど。



私は大丈夫。
家を出て、空を飛んだ瞬間に、心が晴れたよ。



「弱い人間で、私は単純な人間だもの」




今はもう、大丈夫。
自分の心の整理はもうできた。




「由紀」

「なに?」

「由紀」

「なーに?」








「…柳崎由紀」






「…」



「普通科にさっさと戻ってこい。お前割と話してて面白い奴だし、嫌いじゃないし。
いつまでも空席じゃあつまんねーよ」

「……ありがとう、心操君」



そういって、心操君は私から離れた。




「何かあれば連絡するし、一応オールマイト先生宛の手紙は残しておいたから、緊急時はオールマイト先生に伝えて」

「分かった」




私は素早く髪を束ね、シュシュを巻き付けた。
心操君が持ってきてくれた荷物を、鞄を持って再び翼を広げた。




「それじゃあ、さようなら」

「…」



別れの言葉を告げて、私は空へ飛んだ。
日は沈み、辺りを闇で覆いつくし始めている。
これなら夜間飛んでもバレにくい。
幸い今日は満月ではないし。



空を飛びながら、半年も満たなかった高校生活が脳裏を過る。
あっという間だった。まるで花火みたい。
騒ぐだけ騒いで、勝手に消えて行って。




「相澤先生、ごめんなさいっ…」




こんな生徒でも気にかけてくれて。
気に留めてくれて、ありがとうございました。
相澤先生のおかげで今の私がいる。
本当に先生には迷惑をかけっぱなしだった。最初から最後まで。



裏山を通り過ぎ、行く当ても定まらないまま翼上下に動かす。
少し小さめの電波塔を通り過ぎた時、くんっと体が後ろに引かれた。


まさか、と。


一瞬にして口の中がカラッと乾いた。
即座に体が拘束され、飛べなくなった私は重力に従って地面に落ちる。




「テメェいい加減にしろよ」




今までになく、怒りをあらわにしたその声に、私はゾッとしてしまった。
顔を上げれば、夜闇に光る赤い瞳。



―――相澤先生が、そこにいた。





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