ダイビング!

□vol.6
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(side相澤)



入試の時、モニター越しで見たアイツはまるで得物を探す肉食獣の様だった。




それが、あいつの第一印象だった。












vol.6 壁を乗り越えろ











―――化け物だ。




それが正直な答えだった。
男女差があるとはいえ、爆豪の攻撃を軽々と躱し、まるで地鳴りのような咆哮はこのガラス窓を突き破りそうだった。
それほどまでの、威力。
あれだけ騒いでいた会場も、柳崎の咆哮で黙り込んだ。
いや、黙らざるを得なかったと言った方が正しいか。

その咆哮を聞いたとき、思わず身震いした。
身構えてしまった。


あの場にいるのは本当に生徒か?


と、疑ってしまうくらいに。
一瞬あの人間の姿を忘れ、竜の姿と勘違いしてしまうくらいに。


アレ、が。
あいつが。

あいつが敵側に回ってしまうと考えただけで、恐ろしい。
まだ高校1年のガキのくせに。



「本当に普通科か…?イレイザー」

「…俺が聞きたいくらいだ」



隣のマイクも実況するのを忘れてしまうほど、唖然としていた。

それから試合終了の声が響く。
前半は動きが良かったが、後半は動きが鈍くなった。
爆豪の連撃が続いたことが柳崎にとって負担になった…?
いや、それは考えにくい。
先日のヴィラン襲撃事件の時にあいつの鱗を見たが、あれはそう簡単に砕けるようなものじゃなかった。
校長が拾ってきた鱗をなんとなく受け取ったが、あれは本物の竜の鱗だ。



「!」

「おい、どこいくんだ!?」




マイクの声をスルーして、俺は部屋を飛び出した。



柳崎が会場を去る際に見えたあの"笑顔"



俺は、それに戦慄を覚えた。
子供が向けるような瞳ではない。
ぎょろりと血走った瞳は試合が終わったと言うのに獲物を探し求めているようで。
引き攣った口元は自身の血をぺろりと舐め、悦んでいた。

あの笑顔が子供がするのか?



嫌な予感がして、あいつの後を追った。
途中見失ってしまったが、会場裏の、如何にも人が来なさそうな場所に伏していた。
壁に手をついて唸っているが、その壁は抉れている。
俺に気づいているのかいないのか分からないが、その場に溢れる殺意は異質だった。



「うぅ…あああぁ…!!」



声を―――。
声をかけるのを躊躇ってしまうくらいに。



「痛いよ…痛いよ…」



だが、行動とは裏腹に、辛辣な声が柳崎の現状を物語っていた。
こいつが試合を放棄した理由。
言うまでもなく、個性の暴走。

それほどまでにこいつが爆豪に追い詰められたということか?
いや、眠っていた竜を叩き起こしたとしてしまったら?



「…そこで、何してる」



その言葉に、柳崎はビクリと背筋を震わせた。
顔をこちらに向けない。いや、向けれない、のか。



「ぁう…あ、あい…」




俺の名前を呼ぼうとしている。
けれど呂律が回っていない。
意識はある。だがその意識は本当に柳崎のものか?



「個性の暴走か?おい、意識はあるか?」



ぎょろり。
柳崎の目と合ったかと思えば、いきなり右腕で俺を切り裂こうとする。
だが、かろうじて意識が残ってる柳崎自身の左手で制した。
だがそれは右腕を完全に使えなくしている。
行動が、個性が、あまりにも異常すぎる。
制止できないからといって普通自分の腕を壊すか?



「…相澤先生…」



顔を上げた柳崎の表情は、あまりにも切なすぎるものだった。
顔半分、体半分竜と化し、残った半分で救けを求めるかのように俺の名を呼んだ。


そこから次に転じるのは早かった。
右腕が使えないなら右足で。
表情とは裏腹に、身体は正直だった。
素早く俺の喉元を狙ってきたが、こんなガキにやられるほど伊達にプロヒーローは名乗ってない。
その攻撃をかわし、捕縛武器に手を伸ばし柳崎の体を縛り付けた。



「先生…お願いです…放って置いてください…」



柳崎の口からきいた言葉はとんでもない事だった。
放って置け?馬鹿言え。お前を放って置いたら誰かが間違いなく"命を落とす"



「…放って置けるか」



あまりにも自分勝手すぎる思考に半ば苛立ちを覚えながらも、個性を発動させた。
瞬時に体が元の人の形に戻った。
勿論、瞳もぎょろりとしたものではなく、いつもの柳崎の目に。



「俺の個性は抹消。お前の個性を消した」



それを聞いて安堵した様子で、柳崎はふらついた。
倒れそうになった体を支え、見た目よりも軽すぎる体重に驚いた。

こいつ飯食ってるのか?



「相澤先生…ごめんなさい…」



そういう柳崎のは先ほどの異常ともいえる姿から遠くかけ離れたものだった。


…普通の、子供じゃねぇか。




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