ダイビング!

□vol.3
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***






「柳崎、ちょっとこれ職員室まで運んでおいてくれないか?」

「はーい」



授業終了後、先生のお手伝いをすることに。
先生は会議が始まってしまうからと言い残し、先に職員室に向かっていった。
別に頼まれるのは嫌いじゃない。寧ろやります、って感じなんだけど。



「それにしてもおなご一人にこの資料はきちぃんじゃねぇかい先生よ…」



思わず口調もガタガタになってしまう。
ノートクラス分+教材資料(冊子)クラス分。

…多いわ!


でもまぁ個性を使えばなんてことない。




「由紀、それ持ってくのか」

「あ、うん」

「…半分持つ」

「ほんとに!?助かるーー!!」

「…」




個性を使おうとしたが、心操君がクラスノートの方を持ってくれた。
お礼を告げてから私達は職員室へと向かった。




「…傷、治ってないのか?」

「ん?あぁ、大丈夫。そんなに酷い怪我じゃないし」



リカバリーガールからは私自身の体力の問題もあり、全てを治癒してもらうことは出来なかった。
それでも腕や顔にかすり傷が残っている程度で、死柄木に剥がされた鱗の部分は思ったより裂傷が激しかった。
鱗で肌を守ったが、それでも強引に鱗を剥がされたという感じで、筋肉繊維まで奴の個性は届かなかったものの、傷が残った。
でもリカバリーガールの話では数日も経てば綺麗に消えるとのこと。




「お前さぁ、なんでヒーロー科じゃねぇの?」

「うおぉ。傷を抉りますなぁ心操殿」

「あ、いや別にそういうつもりで言ったわけじゃ…」

「いやいや心操君の言う事も最もさね。
この個性、入試でばっちし使えると思うじゃん?
でもね。本番で、私動けなくなっちゃったんだ」

「…は?」

「運が悪いと言うか、何というか。初っ端から0ポイントの仮想ヴィランと出くわしちゃって。
逃げようとしたんだけど、身体が言う事聞かなくてさ…で、仮想ヴィランにやられてそのまま試験終了」

「お前、それおかしいだろ!」




心操くんが足を止めて、私に向かって怒鳴った。
彼の気持ちは重々わかる。
洗脳という個性は、あの入試では圧倒的に不利だったということを。

それに比べて私はヴィランを倒せる能力も持ってる。
あの入試では有利なのにも関わらず、自分にまけてチャンスを逃したのだ。
心操君が怒る理由もよくわかる。




「入試でそんなザマだったのに、なんで雄英襲撃事件じゃあお前が褒められてるんだ?おかしいだろ!」

「学んだから」

「は?」

「あのままでいいわけがない。だから、私は変わる努力をしたんだよ」



心のどこかで心操君に謝る私がいた。
本当の"私"を、心操君に伝えることが出来ないから。



「努力って…」

「本当は先生に内緒って言われてるんだけどね。
校長先生にお願いして、あの仮想ヴィランで訓練してもらったんだ」

「なっ…!?」

「ほんとに内緒だよ?最初は校長先生にも反対されたし、正論で追い返された。
それでも私はね、何度もお願いしたんだ」

「…それ、ズルくねぇか?」

「自主勉と一緒さ。椅子に座って聞いてる内容は同じ。
その後の空いた時間を遊んで費やすのか、勉強に費やすのか。
で、どっちがテストの点が良いかなんて聞かれたそんなの明白だろう?」

「時間の使い方が俺らと違うだけって話か?そうじゃねぇだろ。
お前、元々ヒーローになれる素質はあったんだ」

「心操君、私だけじゃないよ。
君だって十分ヒーローになれる素質を持ってるんだ」

「…」




それから心操くんは黙り込んでしまった。
良いクラスメイトだ。私も彼をフォローしたい。
でも、彼自身一番よく分かってるんだろうな…個性の事は。


私よりもきっと彼の方がつらい思いをしてきてる。


敵にふさわしい個性を持ってる、なんてことをヒーロー目指してる自分に言われたら。



そんなの酷い話さね。






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