ダイビング!

□vol.1
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「そこのリスナー?ちょっと頼まれごとをしてくれねぇか?」



と、私は移動教室に向かう途中にも関わらずその足を止めた。
おかしいかな、今から授業中なんてこと、先生なら知ってるはずなのに…頼まれごととは。
くるりと後ろを振り向けば、プロヒーローのプレゼントマイク先生だった。
そのことに私は思わず目を見開いた。
同じ雄英高校と言えど、普通科の生徒にそんなに用はないのだから。

いや皆無というわけじゃないけどね?


生のプロヒーローにドギマギしながらも私は返事を返した。



「なんでしょう?」

「ちぃーっと用事が出来ちまって、イレイザーヘッドにこれ届けてくんねぇかなァ?
勿論担任の先生には伝えとくぜ。今頃USJにいるだろうから…」

「あ、私やりますよ。移動教室先もUSJの近くですし」

「おお、サンキューリスナー!んじゃ、これ頼んだぜ!」




と、私はマイク先生からややどっしりとした箱を受け取った。
そして颯爽とその場を立ち去っていく。
何かあったのだろうか。ヒーローは常に忙しいからなぁ…

私も早く届けて、教室に向かわなきゃ。















vol.1 運命の日













「相澤先生、これマイク先生からのお荷物です」

「…」

「あ、あれっ?」




USJに相澤先生が入っていく姿が見えたので、私も後を追って中に入る。
既に中ではヒーロー科の人たちが集まっていて、13号先生の話を聞いていた。
相澤先生が隅で暇そうにしていたから、丁度良いタイミングだと思って声をかけた。

の、だが。


微妙な顔をされてしまったので何かしでかしたかと不安になる。
いやまぁ現在授業すっぽかしてるんですけれども。




「お前…今授業中じゃねぇのか」

「え?あ、いや、マイク先生が担任に言っておくから頼むって…」

「…あぁ、なるほどね…」



と納得の表情を浮かべた。
微妙な表情の原因は私が今ここにいるという事だったのか。
まぁそりゃあ普通科の生徒がこんな、微塵も、用の無い、場所にいれば…怪しむのも無理はない。

…自分で言っててちょっと空しくなったわ。



「…いや助かった。今から授業でちょっと足りないものがあったからな…あいつは勘がいいと言うかなんというか…」

「いえ、お役に立てて私も嬉しいです」

「俺からも担任に言っておく。ありがとな」

「!」




私はにっこりと微笑み返した。
お礼を言われるのは悪くない。寧ろとても気分が良いことだ。
それでは私も教室に戻りましょうか。



ここはいて気分がいいところじゃない。




一度自分が高みを、ヒーローを目指した場所だったから。


入学試験で見事にヒーロー科からふるい落とされ、それでもギリギリ入れたのが普通科だった。
それが、現実を突き付けられて。
私にはヒーローになれる資格が無いのだと、言われているような気がした。
…不合格とはそういう意味なんだろうけど。
それでも私はこの雄英にいられるのがせめてもの救いと言ったところか。


親にも言われたことだ。
私にヒーローが務まるわけがないと。
そこまで否定されちゃあ悲観もしようのないったらありゃしない。
私の個性は、"人を助ける"のではなく"人を傷つける"個性が前面に出ている能力だから。
親が反対するのも少し、分かる気がした。
まさに敵にこそ相応しい個性。



出口の扉へ手をかけようとした時。
相澤先生の怒鳴り声が響いたところで、私の視界は闇に包まれた。




あれ?停電?



「え?」



と、私は自身の体が地面に伏していることに気が付いた。
ハッとして体を起こせば、入口に相澤先生たちの姿が見える。
あれ?私はここを出ようとしていたはずなのに、なんで、なんでUSJ内にいるの?



「鼠一匹逃がしませんよ」



ぞっとするような声だった。
視線を横に向ければ、視たこともない連中が黒い霧から現れている。
しかもそれだけではない。体中に手がたくさんついている人や、体格の大きすぎる者までいた。
それは明らかに"普通"では無かった。




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